
令和6年度の介護保険・障害者総合支援法の報酬改定において、処遇改善に関する加算が大きく見直され、一本化されることとなりました。
これまでの「処遇改善加算」「特定処遇改善加算」「ベースアップ等支援加算」が統合され、新しい加算制度が導入されます。これにより、福祉・介護職員の賃金改善や職場環境の向上をさらに推進する仕組みが整備されました。
以下、介護保険ベースで説明いたします(障害福祉サービス等も一部を除き、ほぼ同じ内容です。)。
処遇改善加算の一本化
これまでの複数の加算を組み合わせて新たに4つの区分に分け、それぞれの加算率が設定されました。たとえば、訪問介護の場合の加算率は次のようになります。
・新加算Ⅰ: 24.5%
・新加算Ⅱ: 22.4%
・新加算Ⅲ: 18.2%
・新加算Ⅳ: 14.5%
新加算の要件
新加算の算定に必要な要件は、
①キャリアパス要件
②月額賃金改善要件
③職場環境等要件
の3つですが、各要件がさらに細分化されるため、処遇改善加算の算定要件は全部で8つの要件が設定されることになります。
まずは、キャリアパス要件から説明します。
キャリアパス要件とは?
キャリアパスとは、事業所における職位や職務に就くために必要な業務経験などのことを言います。
わかりやすく言えば、その職位に就くためには、どのようなことをすれば良いのかを明確にしておくということです。
そして、キャリアパス要件は、Ⅰ~Ⅴまで以下のように定められております。
Ⅰ 職員・職責・職務内容等に応じた任用要件と賃金体系を書面で整備し、全ての介護職員に周知すること
Ⅱ 資質向上のための計画を策定して研修の実施又は研修の機会を確保し、全ての介護職員に周知すること
Ⅲ 経験若しくは資格、又は一定の基準に基づき定期に昇給を判定する仕組みを設けた上で書面で整備し、全ての介護職員に周知すること
Ⅳ 経験・技能のある介護職員のうち1人以上は、賃金改善後の賃金の見込額が年額440万円以上であること(小規模事業所などで加算額全体が少額である場合、職員全体の賃金水準が低い事業所などで、直ちに一人の賃金を引き上げることが困難な場合を除く)
Ⅴ サービス類型ごとに一定以上の介護福祉士等を配置していること
なお、キャリアパス要件Ⅰは、処遇改善加算のどの加算区分においても必要な要件となります。
キャリアパス要件の経過措置
また、キャリアパス要件の一部については、R6年度内は経過措置が認められているものがあります。
・キャリアパス要件Ⅰ~Ⅲ
⇒各要件をR6年度中に満たすことを誓約すれば算定要件を満たしているとみなされます。
・キャリアパス要件Ⅳ
⇒R6年度中は、賃金改善後の賃金の見込額が年額 440万円以上の職員の代わりに、新加算の加算額のうち旧特定加算に相当する部分による賃金改善額が月額平均8万円以上の職員を置くことで算定要件を満たしているものとみなされます。
キャリアパス要件の新加算への適用区分は以下の表のとおりです。
キャリアパス要件 | |||||
新加算 | Ⅰ | Ⅱ | Ⅲ | Ⅳ | Ⅴ |
処遇改善加算Ⅰ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
処遇改善加算Ⅱ | ○ | ○ | ○ | ○ | |
処遇改善加算Ⅲ | ○ | ○ | ○ | ||
処遇改善加算Ⅳ | ○ | ○ |
次に月額賃金改善要件について説明します。
月額賃金改善要件とは?
「月額」と書かれてあるとおり、介護職員の月給を改善することを目的とした算定要件であり、ⅠとⅡの2つに分かれております。
Ⅰ 新加算Ⅳ相当の加算額の2分の1以上を、月給(基本給又は決まって毎月支払われる手当)の改善に充てること。
なお、新加算Ⅰ~Ⅲのいずれかを算定する場合であっても、新加算Ⅳの算定相当分の2分の1以上を基本給の改善に充てる必要があります。
Ⅱ これは、R5年度までに旧処遇改善加算は算定していたものの、旧ベースアップ加算を算定していなかった事業所にのみ課される要件です。
当該事業所が新加算を算定するに当たって、旧ベースアップ加算に相当する額を全額、賃金改善に充てなければならないとするものです。
しかも、その額の3分の2以上を基本給のベースアップに充てなければなりません。
月額賃金改善要件の経過措置
月額賃金改善要件Ⅰについては、令和6年度中は経過措置となっております。
職場環境等要件とは?
これは、(賃金改善以外の方法による)職場環境の改善を行う要件のことを言います。
職場環境等要件は以下のとおり6つに区分けされており、各区分に定められた取り組み数のうち、実施すべき最低数が新加算ごとに定められております。
これまでの職場環境等要件と比べて取り組み内容が増加しております。
特に、「生産性向上(業務改善及び働く環境改善)のための取組」については、大幅に変更されておりますので、注意が必要です。
実施すべき取り組みの数 | ||
職場環境等要件 | 処遇改善加算Ⅰ・Ⅱ | 処遇改善加算Ⅲ・Ⅳ |
入職促進に向けた取組 (4) | 2つ以上 | 1つ以上 |
資質の向上やキャリアアップに向けた支援(4) | 2つ以上 | 1つ以上 |
両立支援・多様な働き方の推進(4) | 2つ以上 | 1つ以上 |
腰痛を含む心身の健康管理(4) | 2つ以上 | 1つ以上 |
生産性向上(業務改善及び働く環境改善)のための取組(8) | 3つ以上 | 2つ以上 |
やりがい・働きがいの醸成(4) | 2つ以上 | 1つ以上 |
※( )内は国が示した取り組み項目の数
職場環境等要件の経過措置
この要件についても、経過措置が設けられており、旧加算のときと同じ内容です。経過措置期間中の実施すべき取り組みの数は以下の表のとおりです。
実施すべき取り組みの数 | ||
職場環境等要件 | 処遇改善加算Ⅰ・Ⅱ | 処遇改善加算Ⅲ・Ⅳ |
入職促進に向けた取組(4) | 各区分からそれぞれ1つ以上 | 全ての区分から1つ以上 |
資質の向上やキャリアアップに向けた支援(4) | ||
両立支援・多様な働き方の推進(4) | ||
腰痛を含む心身の健康管理(4) | ||
生産性向上のための取組(4) | ||
やりがい・働きがいの醸成(4) |
※障害福祉サービス等の経過措置において、処遇改善加算Ⅰ・Ⅱを算定する場合は、「6つの区分から3つの区分を選択し、それぞれで1以上の取り組みを実施する」こととされております。
新加算への移行に当たっての激変緩和措置
(激変緩和措置不要の場合)
上記の新加算Ⅰ~Ⅳの要件を直ちに充足して移行できる事業所は、R6年度中に新加算に移行することができます。その場合、R6年度中から高い加算率アップが可能です。
(激変緩和措置が必要な場合)
新加算Ⅰ~Ⅳに直ちに移行できない事業所については、激変緩和措置として、令和7年3月までの間、新加算Ⅴ(1~14)が設けられております。
新加算Ⅴは旧処遇改善加算・旧特定処遇改善加算・旧ベースアップ加算の組み合わせを元にした14種類の加算です。
これまで事業所が旧3加算のうち、それぞれどの種類の加算の、どの区分を算定していたかによって、(1)~(14)のいずれの区分に該当するかが決まります。
R6年度はいったん、新加算Ⅴを適用して若干の加算率アップしてから、準備を整えてⅠ~Ⅳのいずれかの要件を満たし、より高い加算率を目指すことも可能です。
なお、この経過措置はR6年度内に限っての経過措置ですので、R7年度からは新加算Ⅰ~Ⅳのいずれかに移行しなければなりませんので、注意してください。
キャリアパス要件、月額賃金改善要件、職場環境等要件別の加算要件
新加算の要件をキャリアパス要件、月額賃金改善要件、職場環境等要件別にまとめると以下のとおりになります。参考にしてください。
1 キャリアパス要件
※以下の(1)~(3)は根拠規程を書面で整備の上、全ての介護職員に周知が必要
(1)キャリアパス要件Ⅰ(任用要件・賃金体系)
介護職員について、職位、職責、職務内容等に応じた任用等の要件を定め、それらに応じた賃金体系を整備する。
▶R6年度中は年度内の対応の誓約で可
▶この要件は新加算Ⅰ~Ⅳまで必須
(2)キャリアパス要件Ⅱ(研修の実施等)
介護職員の資質向上の目標や以下のいずれかに関する具体的な計画を策定し、当該計画に係る研修の実施又は研修の機会を確保する。
a 研修機会の提供又は技術指導等の実施、介護職員の能力評価
b 資格取得のための支援(勤務シフトの調整、休暇の付与、費用の援助等)
▶R6年度中は年度内の対応の誓約で可
▶この要件は新加算Ⅰ~Ⅳまで必須
(3)キャリアパス要件Ⅲ(昇給の仕組み)
介護職員について以下のいずれかの仕組みを整備する。
a 経験に応じて昇給する仕組み
b 資格等に応じて昇給する仕組み
c 一定の基準に基づき定期に昇給を判定する仕組み
▶R6年度中は年度内の対応の誓約で可
▶この要件は新加算Ⅰ~Ⅲまで必須
(4)キャリアパス要件Ⅳ(改善後の賃金額)
経験・技能のある介護職員のうち1人以上は、賃金改善後の賃金額が年額440万円以上であること。
▶R6年度中は月額8万円の改善でも可
▶この要件は新加算Ⅰ・Ⅱで必須
(5)キャリアパス要件Ⅴ(介護福祉士等の配置)
サービス類型ごとに一定割合以上の介護福祉士等を配置していること。
▶この要件は新加算Ⅰで必須
2 月額賃金改善要件
(1)月額賃金改善要件Ⅰ
新加算Ⅳ相当の加算額の2分の1以上を、月給(基本給又は決まって毎月支払われる手当)の改善に充てる。
▶R7年度から適用 ←R6年度は猶予期間
▶この要件は新加算Ⅰ~Ⅳで必須
※一時金による増額では将来的な見通しを立てにくいことから、基本給を増額させる趣旨です。
(2)月額賃金改善要件Ⅱ
前年度と比較して、現行のベースアップ等加算相当の加算額の3分の2以上の新たな基本給等の改善(月給の引上げ)を行う。
▶ベースアップ加算未算定の場合のみ適用。←ほとんどの事業所でベースアップ加算を取得済みのため、当該要件の取得が新たに必要な事業所は限られる模様。
▶この要件は新加算Ⅰ~Ⅳで必須
3 職場環境等要件
<新加算Ⅰ・Ⅱの場合>
6の区分ごとにそれぞれ2つ以上(生産性向上は3つ以上、うち一部は必須)取り組む。情報公表システム等で実施した取組の内容について具体的に公表する。
▶R6年度中は区分ごと1以上、取組の具体的な内容の公表は不要←つまりR6年度は従来のままでOK
<新加算Ⅲ・Ⅳの場合>
6の区分ごとにそれぞれ1つ以上(生産性向上は2つ以上)取り組む。
▶R6年度中は全体で1以上←つまりR6年度は従来のままでOK
まとめ
処遇改善加算の一本化により、これまで複雑だった事務手続きが整理され、算定を回避していた事業所も新たに算定してくるものと思われます。
これにより、介護現場で働く方々の処遇改善が一層促進されることが期待されます。
一方で、職場環境等要件の見直しに伴い、取り組むべき項目が大幅に増加しており、算定を行う際には、各項目の取り組みについて、より一層の注意が求められます。
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