就労選択支援の検討の方向性

厚生労働省では、障害福祉サービスの新しいサービスである「就労選択支援」について、論点を1から9までに分けて議論が進められています。

ここでは、その内容をわかりやすく解説します。

論点1 就労選択支援の対象者について

1. 就労継続支援B型を希望する方について

令和7年10月以降、就労継続支援B型の利用を希望する場合、申請前に原則として就労選択支援を利用することが検討されています。

2. 就労継続支援A型・就労移行支援の延長利用を希望する方について

A型の利用を希望する方、または就労移行支援の標準利用期間を超えて利用を希望する方については、支援体制の整備状況を踏まえ、令和9年4月以降、申請前に就労選択支援を利用する方向で検討されています。

一方、就労移行支援で既に利用中の方で、一般就労の具体的な予定がある場合など、就職の可能性が明確なケースは、就労選択支援の対象外とすることが想定されています。

3. 定期的な情報提供の強化

利用者が現在通っている事業所(就労継続支援事業所など)は、相談支援事業所と連携して、就労選択支援に関する情報を定期的に提供する仕組みが検討されています。

4. 支給決定更新の前後における柔軟な対応

利用者の能力向上が明らかになった場合は、支給決定更新の時期を待たずに、本人が希望すれば就労選択支援を利用できる仕組みを導入することが議論されています。

また、少なくとも3年に1回の支給決定更新時には、相談支援事業所が就労選択支援の利用可能性を説明し、希望者が利用できるよう配慮する方向です。

論点2 特別支援学校における取扱いについて

1. 各学年でのアセスメント実施の可能性

これまでは主に卒業を控えた高等部3年生が対象とされてきたアセスメントを、3年生以外の学年でも実施可能にする方向で議論が進められています。

また、生徒の状況に応じて、在学中に複数回アセスメントを実施できる仕組みの導入も検討されています。

2. 職場実習のタイミングでの支援

職場実習は、生徒が実際の仕事を体験し、自分に合った働き方を考える大切な機会です。このタイミングで就労選択支援を実施できる仕組みを整えることが検討されています。

論点3 他機関が実施した同様のアセスメントの取扱いについて

1. アセスメントの重複を避けるための仕組み

既に他機関で作業場面を活用した状況把握やアセスメントが行われている場合、就労選択支援事業者がそれを活用できるようにすることが検討されています。

2. 活用できるアセスメントの条件

活用可能なアセスメントとして、以下の情報が含まれていることが検討されております。

・障害の種類や程度

・就労に関する意向や経験

・必要な配慮や支援

・適切な作業環境

これらの情報を元に、以下の3つの取組が進められることが検討されています。

・多機関連携によるケース会議

・アセスメント結果の作成

・事業者や関連機関との連絡調整

また、関係機関に対してケース会議への参加協力を求める仕組みも検討されています。

3. 対象となるアセスメントの範囲

以下の機関が実施したアセスメントが、原則1年以内のものであれば対象となることが検討されております。

・障害者就業・生活支援センター

・障害者職業センター

・就労系障害福祉サービス事業所

・特別支援学校のアセスメントや実習評価

論点4 実施主体の要件について

1. 実施主体となる事業者の要件

就労選択支援の実施主体は、障害者就労支援における十分な経験と実績を持つ事業者に限定する方針が議論されています。具体的には、以下の条件を満たす事業者が想定されております。

・過去3年間に3人以上の障害者を通常事業所に雇用させた実績があること。

・地域の就労支援に関する情報(社会資源や雇用事例など)を適切に提供できること。

対象となる事業者(案)は次の通りです。

・就労移行支援事業所

・就労継続支援事業所

・障害者就業・生活支援センター事業の受託法人

・自治体設置の就労支援センター

・人材開発支援助成金(障害者職業能力開発コース)による訓練事業を行う機関

・これらと同等の経験と実績を有すると都道府県等が認めた事業者

2. 地域連携と情報提供の義務

指定基準では、実施主体となる事業者に以下の役割を求めることが検討されております。

・定期的な協議会への参加

・地域の自立支援協議会への定期的な参画、就労支援に関する議論や情報共有。

・ハローワークなどへの訪問と情報収集

・地域の社会資源や雇用事例について積極的な情報収集と利用者への提供

・進路選択をサポートする情報提供

・収集した情報を活用し、利用者がより的確な進路選択をすることへの支援

論点5 中立性の確保について

1. 自法人への誘導を防ぐ仕組み

支援事業者が自ら運営する就労系障害福祉サービスへの利用者誘導を防ぐため、介護保険で用いられている「特定事業所集中減算」の仕組みを参考にした規定が検討されています。

2. 必要以上のサービス提供を防止

本来の目的を逸脱したサービス提供を防ぐため、就労選択支援の提供内容を適切に制限する仕組みが議論されています。

3. 利益収受の禁止

障害福祉サービス事業者等からの不当な利益収受を防ぐため、報酬告示や指定基準において明確に禁止する方針が検討されています。

4. 偏りのない情報提供の仕組み

本人に提供する情報に偏りや誤りがないよう、多機関連携によるケース会議の活用が検討されています。ケース会議では以下の取組が想定されています。

・本人の意向や関係機関の見解を共有し、それを踏まえたアセスメント結果の作成

・自立支援協議会の就労支援部会の定期的活用

・必要に応じたオンライン会議の実施

論点6 従事者の人員配置・要件について

1. 就労選択支援員の配置

就労選択支援事業所には、サービス提供時間に応じた適切な数の「就労選択支援員」を配置する方針が検討されています。この基準については、すでに運用されている就労移行支援事業所の「就労支援員」の人員配置基準が参考にされることが検討中です。

2. 兼務の柔軟性

就労選択支援が、就労移行支援や就労継続支援と一体的に提供される場合、次の点が検討されています。

・職員の兼務:就労移行支援や就労継続支援の職員が、利用定員内で就労選択支援の業務を兼務できること。

・管理者の兼務:これらのサービスをまとめる管理者についても兼務を認めること。

3. 個別支援計画の不要性

就労選択支援は短期間のサービスであるため、通常の支援計画を作成する必要がないことが議論されています。これに伴い、「サービス管理責任者」の配置は不要とする方向性が検討されています。

論点7 計画相談事業との連携・役割分担について

1. 就労選択支援利用前の連携

就労選択支援を利用する前の段階で、計画相談支援事業所が以下の役割を担うことが検討されております。

・サービス等利用計画案の作成

就労選択支援の支給決定に必要な計画案を作成し、利用者の希望や状況を反映

・事前情報の提供

計画相談支援事業所がこれまでに把握している利用者の情報を、就労選択支援事業所へ共有

2. 利用期間中の連携

就労選択支援を提供する期間中には、次のような連携が検討されています。

・ケース会議への参加

多機関連携によるケース会議に計画相談支援事業所も参加し、支援計画の調整や進捗確認

・情報の伝達

アセスメント結果や利用者の進捗状況について、就労選択支援事業所から計画相談支援事業所へ情報を共有

3. 利用後の連携

就労選択支援が終了した後も、計画相談支援事業所が以下の役割を担います。

・新たなサービス等利用計画案の作成

アセスメント結果を踏まえ、利用者の次のステップに適した計画案の作成

・モニタリングと情報提供

モニタリング実施時と支給決定更新時に、就労選択支援の情報を利用者に提供し、意向を確認。

論点8 就労選択支援の報酬体系について

・日額報酬制の導入検討

就労選択支援の基本報酬を、現在の就労移行支援事業と同様に「サービス提供日に応じた日額報酬」とすることが検討されています。

論点9 支給決定期間について

1. 支給決定期間の基本方針

支給決定期間は原則1か月とする方向で検討が進められています。ただし、利用者の状況に応じて、最大2か月の支給決定を行うことができる柔軟な仕組みも議論されています。

2. 2か月支給決定が認められる場合

以下のような特別な状況においては、2か月間の支給決定が可能となることが検討されています。

・自己理解に課題がある場合

自分自身に対する過大・過小評価や特性に関する知識が不足しているため、進路選択に必要な自己理解を深めるための継続的な作業体験が必要な場合

・集中力や体力、精神面の安定に課題がある場合

作業に対する集中力、意欲、体調や精神面の安定性に課題があり、観察期間を延長して支援が必要な場合

3. 作業場面を活用した状況把握の期間

就労選択支援の重要な要素である「作業場面等を活用した状況把握」については、1か月の支給決定期間を踏まえ、2週間以内を基本とすることが検討されています。

まとめ

国の検討は現在進行形であり、制度設計がどのように具体化されるかについては、引き続き注視する必要があります。関係する事業者や支援者は、現段階の方向性を理解しつつ、利用者に適切な支援を提供するための準備を進めていくことが求められます。

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