BCP(事業継続計画)対策とは? 〜介護・障害福祉事業所は減算の対象に?〜

2024年度(令和6年)の介護報酬改定や、障害者総合支援法に基づく報酬改定において、新たに「業務継続計画未策定減算」が導入されました。

これは、感染症や災害に対する事業継続計画(BCP)が策定されていない場合、該当事業所の報酬が減額される仕組みです。

【介護保険の場合】

施設・居住系サービス: 所定単位数の3%を減算

その他のサービス: 所定単位数の1%を減算

【障害者総合支援法の場合】

3%減算: 療養介護、施設入所支援、共同生活援助など

1%減算: 居宅介護、重度訪問介護、自立生活援助、就労継続支援サービスなど

BCPガイドライン(厚労省)

介護保険法、障害者総合支援法、児童福祉法の運営基準において、BCPの策定は義務付けられました。

厚生労働省では、介護・障害福祉事業所向けに「自然災害発生時の業務継続ガイドライン」と「感染症発生時の業務継続ガイドライン」という2つのガイドラインを公開しています。

今回は「自然災害発生時の業務継続ガイドライン」を中心に、介護サービス事業所が果たすべき役割について説明します。

介護サービス事業者に求められる役割

介護サービス事業者に求められる役割として、ガイドラインでは以下の4点が記載されております。

■サービスの継続

入所施設では、事前の準備を入念に進めることが必要です。被災時でも最低限のサービスを提供し続けられるよう、事前の検討や準備を進めることが重要です。

通所や訪問サービスでは、業務継続を目指し、利用者への影響を最小限に抑えるよう事前に対策を練ることが重要です。

■利用者の安全確保

自然災害が発生した場合、深刻な人的被害が生じる危険性があるため、「利用者の安全を確保する」ことが最大の役割です。

■職員の安全確保

職員の過重労働やメンタルヘルスケアにも配慮し、災害時でも業務を安全に継続できる体制を整えることが、事業所の責務となります。

■地域への貢献

事業所は地域社会との連携を図り、被災時にはその機能を活かして地域に貢献することが求められます。日頃の訓練や交流を通じて、地域との信頼関係を築いておくことも重要です。

BCP策定のポイント

BCPの策定においては、次の4つのポイントを押さえておきましょう。

■正確な情報集約と判断体制の構築

総責任者や担当者を事前に決め、連絡フローを整理する。

■事前対策と被災時対策の準備

設備の耐震固定やインフラ停止時のバックアップを事前に行い、人命を守るためのルールを定める。

■業務の優先順位の整理

職員の出勤状況や被災状況に応じて、継続すべき重要な業務を優先して対応する。

■普段からの周知・研修・訓練

関係者全員に周知し、日頃から訓練を行うことで、災害発生時に迅速に対応できるよう準備を整える。定期的に見直すことも重要。

自然災害に備えるためのBCP策定のポイント

ここでは、BCP策定において大切な基本方針やリスク把握、業務の優先順位づけなど、重要なポイントをご紹介します。

<総論>

1 基本方針の設定

まずBCPを策定する目的を明確にすることが大切です。

災害が発生した場合、次の3つを軸に行動することが求められます。

●入所者・利用者の安全確保

災害発生時でも、まずは目の前の入所者・利用者の安全を最優先に考えることが基本です。

●サービスの継続

停止したサービスを早急に再開し、入所者・利用者の生活に与える影響を最小限に抑えることが求められます。

●職員の安全確保

職員自身が安心して働けるよう、職員の安全対策も重要です。職員が無事であることが、結果的に事業の早期復旧につながります。

また、一般的に「災害発生後の最初の3日間」が事業の存続にとって特に重要とされており、この期間の対応力がその後の回復を左右します。

2 災害対策推進体制の整備

災害に備えるためには、平常時から災害対策の体制を整えておく必要があります。

事業所内での役割分担や、災害時の情報共有体制を確立することが重要です。

3 リスクの把握と対応策の検討

災害リスクを把握するための第一歩は、ハザードマップの確認です。自治体が公表しているハザードマップを利用して、施設の立地に対するリスクを把握しましょう。これに基づいて施設特有の対策を考えることが有効です。

さらに、自治体が提供している被災想定情報を整理することで、発生しうる災害時のインフラ被害を予測し、事前に準備を進めることができます。

4 優先業務の選定

複数のサービスを提供している場合、災害時にどの事業を優先するかを決めておくことが重要です。

例えば、入所・通所・訪問などの事業がある施設では、どの事業を縮小・休止し、どの事業を継続するかを法人本部と連携して決定しておきましょう。

さらに、継続する「事業」の中で、どの「業務」を優先するかも決定しておくことが大切です。必要最小限の人数で業務を遂行できるよう、シミュレーションを行っておくことが求められます。

5 研修・訓練の実施とBCPの検証・見直し

策定したBCPは、関係者全員で共有し、平常時から研修や訓練を行うことが不可欠です。実際に災害が起きた際に、スムーズに対応できるよう、シミュレーションを繰り返すことで、計画の実効性が高まります。

さらに、定期的なBCPの見直しも重要です。社会情勢やリスクが変化する中で、常に最新の対策を反映させることが、継続的な事業の安定化につながります。

<平常時に行うべき対応>

平時から備えを進めておくことが、緊急時に慌てず行動できる秘訣です。

1 建物・設備の安全対策

施設が古い場合は耐震補強の検討が必要です。また、設備や什器が転倒しないように固定し、避難経路の確保も忘れずに。水害対策も万全に整えておきましょう。

2 停電や通信障害時の対策

電気や通信が止まった場合に備え、バックアップの電源や、サーバーの設置場所を見直しておきます。万が一のデータ喪失に備えて、バックアップを定期的に確認しましょう。

3 衛生対策と必要品の備蓄

災害時、下水が使用できないこともあるため、トイレの使用方法や汚物処理についての対策を考えておく必要があります。

また、必要な物資はリスト化し、定期的に見直し・補充を行うことが大切です。

4 資金の確保

火災保険や緊急時に使える資金を確保しておくことも重要な備えです。

<緊急時に備える!災害時の対応ポイント>

緊急時にスムーズに行動できるよう、BCP(事業継続計画)に基づいた災害時の対応方法を事前に準備しておくことが重要です。ここでは、災害が発生した際に取るべき行動や体制について、いくつかのポイントを紹介します。

1  BCP発動の基準を明確にする

災害の種類ごとに、いつBCPを発動するかの基準をあらかじめ決めておくことが大切です。たとえば、地震の場合や水害の場合、それぞれに異なる対応が求められます。

また、BCP発動時に必要な判断を行う統括責任者が不在の際には、誰が代わりにその役割を果たすのかも決めておきましょう。明確な代替者がいれば、緊急時の混乱を最小限に抑えられます。

2 個人の行動基準を明確にする

災害が発生したとき、職員一人ひとりがどう行動すべきかを具体的に決めておくことは非常に重要です。

これにより、無駄な混乱を避け、スムーズに対応することが可能になります。

3 対応体制を図示して準備する

緊急時に各班がどのように役割を分担し、どのような体制で動くかを明確にしておくことが必要です。

代替者を含めたメンバー構成を事前に決め、全員が自分の役割を理解しておくことが、迅速な対応につながります。

4 緊急時の対応拠点を確保する

災害時に職員が集まる緊急対応拠点を、安全で機能的な場所に設定しておきましょう。災害が発生したときにすぐに対応できる場所が確保されていると、迅速な指示出しや連絡が可能になります。

5 安否確認を行う

●災害発生時は、まずは利用者と職員の安否確認を最優先に行います。

利用者に負傷者がいる場合は、応急処置を実施し、必要であれば医療機関への搬送方法も事前に整理しておくことが必要です。

●職員については、フロアやユニットごとに安否確認の方法を複数考え、準備しておくと安心です。

6 職員の参集基準を決めておく

災害が発生した際に、どの職員が集まるべきかの基準を設定しておきます。

自宅が被災している場合など、参集が難しい状況に対応するため、集まらなくてもよいケースも事前に決めておくことがポイントです。

7 施設内外の避難場所を決める

地震などで一時的に避難が必要な場合、施設内外のどこに避難するかを決めておきます。また、津波や水害による浸水リスクがある場合は、垂直避難の方法についても検討しておくことが大切です。

8 重要業務の継続

災害時においても、平常時の業務の中で特に重要なものは継続する必要があります。

優先業務を事前に選定し、その業務をどのように維持するかを検討しておきましょう。

9 職員の負担軽減を考慮した管理

災害対応中でも、職員が過度に疲弊しないよう、休憩場所や宿泊場所の確保、職員向けの備蓄品などを整えておくことが重要です。

少しでも職員の負担を軽減できるよう、準備を進めておきましょう。

10 復旧対応の準備

復旧作業をスムーズに進めるためには、施設の破損個所確認シートや、各種業者の連絡先一覧を整備しておくことが大切です。

災害後の早期復旧に向けて、必要な準備を平常時から進めておくと安心です。

<他施設や地域との連携>

災害時には、他施設や地域との協力が不可欠です。

1 連携体制の構築

他施設や他法人との協力関係を築き、緊急時にはスムーズに連携できる体制を整えましょう。地域ネットワークにも積極的に参加し、地域全体での協力体制を構築します。

2 福祉避難所の運営準備

福祉避難所の指定を受けた場合、開設に向けた事前準備を進め、必要な物資や設備を整えておきます。

災害は予測できないものですが、事前に準備を進めることで、被害を最小限に抑え、利用者や職員の安全を確保することができます。緊急時の対応計画をしっかり整備し、安心して業務を続けられる環境づくりを進めていきましょう。

以下、これまでに発出された介護保険Q&Aと障害福祉Q&Aをご紹介します。

まずは介護保険のQ&Aからです。

介護保険Q&A VOL.1

問164 業務継続計画未策定減算はどのような場合に適用となるのか。

(答)

・感染症若しくは災害のいずれか又は両方の業務継続計画が未策定の場合、かつ、当該業務継続計画に従い必要な措置が講じられていない場合に減算の対象となる。

・なお、令和3年度介護報酬改定において業務継続計画の策定と同様に義務付けられた、業務継続計画の周知、研修、訓練及び定期的な業務継続計画の見直しの実施の有無は、業務継続計画未策定減算の算定要件ではない。

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その後発出された下記Q&A VOL.6問7により以下の通り修正されております。

(Q&A VOL.6)問7 業務継続計画未策定減算はどのような場合に適用となるのか。

(答)

・ なお、令和3年度介護報酬改定において業務継続計画の策定と同様に義務付けられた、業務継続計画の周知、研修、訓練及び定期的な業務継続計画の見直しの実施の有無は、業務継続計画未策定減算の算定要件ではない。

(引き続きQ&A VOL.1)問165 業務継続計画未策定減算の施行時期はどのようになるのか。

(答)

業務継続計画未策定減算の施行時期は下記表のとおり。

対象サービス施行時期
通所介護、短期入所生活介護、短期入所療養介護、特定施設入居者生活介護、地域密着型通所介護、認知症対応型通所介護、小規模多機能型居宅介護、認知症対応型共同生活介護、地域密着型特定施設入居者生活介護、地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護、看護小規模多機能型居宅介護、介護老人福祉施設、介護老人保健施設、介護医療院、介護予防短期入所生活介護、介護予防短期入所療養介護、介護予防特定施設入居者生活介護、介護予防認知症対応型通所介護、介護予防小規模多機能型居宅介護、介護予防認知症対応型共同生活介護令和6年4月
※ただし、令和7年3月 31 日までの間、感染症の予防及びまん延の防止のための指針の整備及び非常災害に関する具体的計 画の策定を行っている場合には、減算を適用しない。
通所リハビリテーション、介護予防通所リハビリテーション令和6年6月
※上記①の※と同じ
訪問介護、訪問入浴介護、訪問看護、訪問リハビリテーション、福祉用具貸与、定期巡回・随時対応型訪問介護看護、夜間対応型訪問介護、居宅介護支援、介護予防訪問入浴介護、介護予防訪問看護、介護予防訪問リハビリテーション、介護予防福祉用具貸与、介護予防支援令和7年4月

※居宅療養管理指導、介護予防居宅療養管理指導、特定福祉用具販売及び特定介護予防福祉用具販売には、業務継続計画未策定減算は適用されない。

問166 行政機関による運営指導等で業務継続計画の未策定など不適切な運営が確認された場合、「事実が生じた時点」まで遡及して当該減算を適用するのか。

(答)

・ 業務継続計画未策定減算については、行政機関が運営指導等で不適切な取り扱いを発見した時点ではなく、「基準を満たさない事実が生じた時点」まで遡及して減算を適用することとなる。

・ 例えば、通所介護事業所が、令和7年 10 月の運営指導等において、業務継続計画の未策定が判明した場合(かつ、感染症の予防及びまん延の防止のための指針及び非常災害に関する具体的計画の策定を行っていない場合)、令和7年10月からではなく、令和6年4月から減算の対象となる。

・ また、訪問介護事業所が、令和7年 10 月の運営指導等において、業務継続計画の未策定が判明した場合、令和7年4月から減算の対象となる。

次に、障害福祉Q&Aをご紹介します。

障害福祉Q&A VOL.1

問 14 業務継続計画未策定減算はどのような場合に適用となるのか。

(答)

感染症若しくは災害のいずれか又は両方の業務継続計画が未策定の場合や、当該業務継続計画に従い必要な措置が講じられていない場合に減算の対象となる。

なお、令和3年度障害福祉サービス等報酬改定において、業務継続計画の策定と同様に義務付けられた、業務継続計画の周知、研修、訓練及び定期的な業務継続計画の見直しの実施の有無は、業務継続計画未策定減算の算定要件ではないが、その趣旨を鑑み、これらの業務継続計画の周知等の取組についても適切に実施していただきたい。

問 15 行政機関による運営指導等で業務継続計画の未策定など不適切な運営が確認された場合、「事実が生じた時点」まで遡及して当該減算を適用するのか。

(答)

業務継続計画未策定減算については、行政機関が運営指導等で不適切な取り扱いを発見した時点ではなく、「基準を満たさない事実が生じた時点」まで遡及して減算を適用することとなる。

例えば、生活介護事業所が、令和6年 10 月の運営指導等において、業務継続計画の未策定が判明した場合(かつ、感染症の予防及びまん延の防止のための指針及び非常災害に関する具体的計画の策定を行っていない場合)、令和6年10 月からではなく、令和6年4月分の報酬から減算の対象となる。

また、居宅介護事業所等の令和7年4月から業務継続計画未策定減算の対象となるサービスの事業所について、令和7年10月の運営指導等において、業務継続計画の未策定が判明した場合、令和7年4月分の報酬から減算の対象となる。

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