
日本では高齢化が進み、慢性疾患や複数の疾患を抱える方、医療と介護の複合的なニーズを有する方が増加しています。これに伴い、医療ニーズが高い方への適切なケア提供を進めるため、高齢者施設での対応が重要視されています。今回の介護報酬改定では、高齢者施設における医療ニーズへの対応として、以下の取り組みが強化されました。
1 特定施設入居者生活介護等における夜間看護体制の強化【特定施設入居者生活介護、地域密着型特定施設入居者生活介護】
特定施設入居者生活介護や地域密着型特定施設入居者生活介護において、夜間の看護体制を見直し、医療的ケアを要する方の受け入れを促進するための施策が導入されました。具体的には、夜勤または宿直の看護職員を配置した場合の評価が新たに設けられています。
- 夜間看護体制加算の変更
これまでの加算区分が見直され、新たな区分が設けられました。
現行 | 改定後 |
夜間看護体制加算 10単位/日 | 夜間看護体制加算(Ⅰ)18単位/日(新設) |
夜間看護体制加算(Ⅱ)9単位/日(変更) |
- 算定要件
夜間看護体制加算には以下の2つの区分が設けられています。- 夜間看護体制加算(Ⅰ)【新設】
- 常勤の看護師を1名以上配置し、看護責任者を定めること。
- 夜勤または宿直を行う看護職員が1名以上配置され、必要に応じて健康管理を行う体制が整っていること。
- 重度化した場合の対応指針を策定し、利用者やその家族に説明し、同意を得ていること。
- 夜間看護体制加算(Ⅱ)【変更】
現行の要件と同様で、夜間看護体制加算(Ⅰ)の(1)と(3)に加えて、以下の要件を満たすことが必要です。
- 夜間看護体制加算(Ⅰ)【新設】
- 看護職員または病院や診療所、指定訪問看護ステーションとの連携により、利用者が24時間連絡できる体制を確保し、健康管理を行う体制が整っていること。
2 医療的ケアの推進に向けた入居継続支援加算の見直し【特定施設入居者生活介護、地域密着型特定施設入居者生活介護】
医療的ケアを必要とする利用者への対応が求められる高齢者施設では、入居継続支援加算が改定されました。これにより、特定の医療行為が必要な入居者に対して、より適切なケアが提供されることを目的としています。
- 新たに加わった医療的ケアの範囲
尿道カテーテル留置、在宅酸素療法、インスリン注射が新たに追加されました。
現行 | 改定後 |
入居継続支援加算(Ⅰ)36単位/日 | 変更なし |
入居継続支援加算(Ⅱ)22単位/日 | 変更なし |
- 算定要件
- 入居継続支援加算(Ⅰ)
次の要件を満たす必要があります。- ①~⑤の医療的ケアを必要とする入居者が全体の15%以上であること。
① 口腔内喀痰吸引
② 鼻腔内喀痰吸引
③ 気管カニューレ内喀痰吸引
④ 胃ろうまたは腸ろうによる経管栄養
⑤ 経鼻経管栄養
- ①~⑤の医療的ケアを必要とする入居者が全体の15%以上であること。
- 入居継続支援加算(Ⅰ)
また、新たに⑥~⑧が追加され、これらの医療行為を必要とする入居者も加算の対象となります。
⑥ 尿道カテーテル留置
⑦ 在宅酸素療法
⑧ インスリン注射
- 入居継続支援加算(Ⅱ)
医療的ケアを必要とする入居者が全体の5%以上15%未満である場合に適用されます。
3 認知症対応型共同生活介護における医療連携体制加算の見直し【認知症対応型共同生活介護】
認知症対応型共同生活介護では、医療的ケアが必要な方々の受け入れを適切に評価するため、体制要件と医療的ケアの受け入れ要件を分けて評価する形に見直されました。また、医療的ケアの範囲も拡大され、以下のような新たな評価が加わっています。
- 医療連携体制加算(Ⅰ)
- イ: 事業所職員である看護師、または病院・診療所・訪問看護ステーションの看護師と連携し、24時間連絡体制を確保している場合。
57単位/日 - ロ: 常勤換算で看護師を1名以上配置している場合。
47単位/日 - ハ: 看護職員を1名以上常勤換算で配置、または病院や訪問看護ステーションとの連携で看護師を確保している場合。
37単位/日
- イ: 事業所職員である看護師、または病院・診療所・訪問看護ステーションの看護師と連携し、24時間連絡体制を確保している場合。
- 医療連携体制加算(Ⅱ)
5単位/日
- 医療連携体制加算(Ⅰ)を算定している事業所が対象で、算定日が属する月の前3月間において、次のいずれかに該当する状態の入居者が1人以上であること。
(1)喀痰吸引を実施している状態
(2)呼吸障害等により人工呼吸器を使用している状態
(3)中心静脈注射を実施している状態
(4)人工腎臓を実施している状態
(5)重篤な心機能障害、呼吸障害等により常時モニター測定を実施している状態
(6)人工膀胱又は人工肛門の処置を実施している状態
(7)経鼻胃管や胃瘻等の経腸栄養が行われている状態
(8)褥瘡に対する治療を実施している状態
(9)気管切開が行われている状態
(10)留置カテーテルを使用している入居者が1人以上いること。
(11)インスリン注射を実施している入居者が1人以上いること。
4 配置医師緊急時対応加算の見直し【介護老人福祉施設、地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護】
介護老人福祉施設や地域密着型介護老人福祉施設で、入所者に急変が生じた場合の対応を強化するため、これまで早朝・夜間・深夜にのみ適用されていた配置医師緊急時対応加算に、日中も評価する新しい区分が設けられました。
- 改定後の加算内容
- 配置医師が通常の勤務時間外に急変対応で駆けつけた場合でも、評価対象となります。
325単位/回
- 配置医師が通常の勤務時間外に急変対応で駆けつけた場合でも、評価対象となります。
5 透析が必要な者に対する送迎の評価
透析が必要な入所者への支援を充実させるため、家族や病院による送迎が困難な場合に施設職員が月12回以上の送迎を行った際に、新たな加算が設けられました。
- 特別通院送迎加算
- 透析を要する入所者で、やむを得ない事情で送迎を行った場合に評価されます。
594単位/月
- 透析を要する入所者で、やむを得ない事情で送迎を行った場合に評価されます。
6 介護老人保健施設における所定疾患施設療養費の見直し【介護老人保健施設】
介護老人保健施設における疾患発症時の医療提供を適切に評価するため、所定疾患施設療養費に新たな対象として「慢性心不全が増悪した場合」が追加されました。これにより、入所者が適切な医療を受けられる環境がさらに整備されます。
今回の介護報酬改定では、医療的ケアや急変時の対応を強化し、高齢者施設でのサービス向上を図る内容が盛り込まれています。施設利用者やそのご家族にとって、より安心できる介護体制が構築されることが期待されています。
以下にこれまで公表されている上記加算についてご紹介します。
Vol.1
○ 医療連携体制加算について
問 148 医療連携体制加算(Ⅱ)の算定要件である前3月間における利用実績と算定期間の関係性如何。
(答)
算定要件に該当する者の利用実績と算定の可否については以下のとおり。
前年度 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 | 1月 | 2月 | 3月 |
利用実績 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | |||||
算定可否 | ✖ | ✖ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ✖ | ○ | ○ | ○ | ○ |
当該年度 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 | 1月 | 2月 | 3月 |
利用実績 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | |||||
算定可否 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ✖ | ○ | ○ | ○ | ○ |
○ 医療連携体制加算について
問 149 留置カテーテルが挿入されていれば、医療連携体制加算(Ⅱ)は算定できるのか。
(答)
・ 留置カテーテルからの排液の性状、量などの観察、薬剤の注入、水分バランスの計測等計画的な管理を行っている場合は算定できるが、単に留置カテーテルが挿入されているだけでは算定できない。
・ また、輸液用のポート等が挿入されている場合であっても、一度もポートを用いた薬剤の注入を行っていない場合は、計画的な管理が十分に行われていないため算定できない。
○ 医療連携体制加算について
問 150 医療連携体制加算(Ⅱ)の算定要件のうち、「インスリン注射を実施している状態」とあるが、実施回数自体に関する規定があるか。(1日当たり何回以上実施している者等)。
(答)
・ インスリン注射の実施の頻度は、医学的な必要性に基づき判断されるべきものであり、本要件は実施の有無を見ているもので、1日当たりの回数や月当たりの実施日数についての要件を設けていない。
・ なお、利用者自身がインスリン自己注射を行うための声掛けや見守り等のサポートを行った場合は算定できない。
○ 配置医師緊急時対応加算について
問 138 配置医師の通常の勤務時間内であるが、出張や休暇等により施設内に不在であった時間帯において、当該配置医師が対応した場合、配置医師緊急時対応加算を算定できるか。
(答)
算定できない。
問 139 配置医師の所属する医療機関の他の医師が、緊急の場合に施設の求めに応じて、配置医師に代わり診療した場合、配置医師緊急時対応加算を算定できるか。
(答)
算定できない。なお、配置医師の所属する保険医療機関かどうかに関わらず、緊急の場合に配置医師以外の保険医が特別養護老人ホームの入所者を診療する場合の診療の費用の取扱いについては、「特別養護老人ホーム等における療養の給付の取扱いについて」(平成 18 年3月 31 日保医発 0331002 号厚生労働省保険局医療課長通知)の3の(2)を参照されたい。
○ 特別通院送迎加算について
問 135 「1月につき 12 回以上、通院のため送迎を行った場合」とは往復で1回と考えてよいか。
(答)
貴見のとおり。
問 136 施設の送迎車等の使用が困難な場合、介護タクシー等外部の送迎サービスを利用した場合、加算の算定のための回数に含めてよいか。
(答)
施設職員が付き添った場合に限り、算定のための回数に含めてよい。
問 137 透析とあわせて他の診療科を受診した場合、加算の算定のための回数に含めてよいか。
(答)
透析のための定期的な通院送迎であれば、あわせて他の診療科を受診した場合であっても、加算の算定のための回数に含めてよい。
←透析のための送迎が主目的であれば、他の診療科を受診した場合でも加算対象となります。透析だけでなく、他の診療科への受診があっても加算される点は、現場での送迎業務をスムーズに進めるための配慮が見られます。この柔軟な対応は、施設や家族の負担軽減に繋がると思われます。(ブログ主)
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