モデル就業規則を用いて留意点を説明 ~第23条(年次有給休暇)

今回は、モデル就業規則第23条のモデル条文とその付属解説を紹介し、その他留意点について解説していきます。

☆モデル就業規則

(年次有給休暇)

第23条 採用日から6か月間継続勤務し、所定労働日の8割以上出勤した労働者に対しては、10日の年次有給休暇を与える。その後1年間継続勤務するごとに、当該1年間において所定労働日の8割以上出勤した労働者に対しては、下の表のとおり勤続期間に応じた日数の年次有給休暇を与える。

勤続期間6カ月1年 6カ月2年 6カ月3年 6カ月4年 6カ月5年 6カ月6年 6カ月以上
付与日数10日11日12日14日16日18日20日

2 前項の規定にかかわらず、週所定労働時間30時間未満であり、かつ、週所定労働日数が4日以下(週以外の期間によって所定労働日数を定める労働者については年間所定労働日数が216日以下)の労働者に対しては、下の表のとおり所定労働日数及び勤続期間に応じた日数の年次有給休暇を与える。

週所定労働日数1年間の所定労働日数勤続期間
6カ月1年 6カ月2年 6カ月3年 6カ月4年 6カ月5年 6カ月6年 6カ月以上
4日169日~2167日8日9日10日12日13日15日
3日121日~1685日6日6日8日9日10日11日
2日73日~1203日4日4日5日6日6日7日
1日48日~721日2日2日2日3日3日3日

3 第1項又は第2項の年次有給休暇は、労働者があらかじめ請求する時季に取得させる。ただし、労働者が請求した時季に年次有給休暇を取得させることが事業の正常な運営を妨げる場合は、他の時季に取得させることがある。

4 前項の規定にかかわらず、労働者代表との書面による協定により、各労働者の有する年次有給休暇日数のうち5日を超える部分について、あらかじめ時季を指定して取得させることがある。

5 第1項又は第2項の年次有給休暇が10日以上与えられた労働者に対しては、第3項の規定にかかわらず、付与日から1年以内に、当該労働者の有する年次有給休暇日数のうち5日について、会社が労働者の意見を聴取し、その意見を尊重した上で、あらかじめ時季を指定して取得させる。

ただし、労働者が第3項又は第4項の規定による年次有給休暇を取得した場合においては、当該取得した日数分を5日から控除するものとする。

6 第1項及び第2項の出勤率の算定に当たっては、下記の期間については出勤したものとして取り扱う。

① 年次有給休暇を取得した期間

② 産前産後の休業期間

③ 育児・介護休業法に基づく育児休業及び介護休業した期間

④ 業務上の負傷又は疾病により療養のために休業した期間

7 付与日から1年以内に取得しなかった年次有給休暇は、付与日から2年以内に限り繰り越して取得することができる。

8 前項について、繰り越された年次有給休暇とその後付与された年次有給休暇のいずれも取得できる場合には、繰り越された年次有給休暇から取得させる。

9 会社は、毎月の賃金計算締切日における年次有給休暇の残日数を、当該賃金の支払明細書に記載して各労働者に通知する。

付属解説【第23条 年次有給休暇】

1 雇入れの日から6か月間継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者に対しては最低10日の年次有給休暇を与えなければなりません(労基法第39条第1項)。

また、週の所定労働時間が30時間未満であって、週の所定労働日数が4日以下あるいは年間の所定労働日数が216日以下の労働者(以下「所定労働日数が少ない者」といいます。)に対しては、通常の労働者の所定労働日数との比率を考慮して、労基則第24条の3で定める日数以上の年次有給休暇を与えなければなりません(同条第3項)。

2 所定労働時間や所定労働日数が変動する労働者の場合、本条第1項又は第2項のいずれに該当するかに関しては、年次有給休暇の「基準日」において定められている週所定労働時間及び週所定労働日数又は年間所定労働日数によって判断することとなります。ここでいう「基準日」とは、年次有給休暇の権利が発生した日のことであり、雇入れ後6か月経過した日、その後は1年ごとの日のことをいいます。

3 年次有給休暇の基準日を個々の労働者の採用日に関係なく統一的に定めることもできます。この場合、勤務期間の切捨ては認められず、常に切り上げなければなりません。

例えば、基準日を4月1日に統一した場合には、その年の1月1日に採用した労働者についても3か月間継続勤務した後の4月1日の時点、すなわち法定の場合よりも3か月間前倒しで初年度の年次有給休暇を付与しなければなりません。

4 使用者は、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対して、そのうち5日については、基準日(継続勤務した期間を6か月経過日から1年ごとに区分した期間の初日)から1年以内の期間に、労働者ごとにその時季を定めることにより与えなければならなりません(労基法第39条第7項。

ただし、労働者自らの請求又は労使協定による計画的付与により年次有給休暇を取得した日数分については、使用者が時季を定めることにより与えることを要しません(労基法第39条第8項)。)。

なお、使用者が時季を定めるに当たっては、労働者の意見を聴取することを要し、当該労働者の意見を尊重するよう努めなければなりません。

5 通常の労働者の年次有給休暇の日数は、その後、勤続年数が1年増すごとに所定の日数を加えた年次有給休暇を付与しなければなりません(労基法第39条第2項)。

6 継続勤務期間とは、労働契約の存続期間、すなわち在籍期間をいいます。継続勤務か否かについては、勤務の実態に即し実質的に判断しなければなりません。

この点、例えば、定年退職して引き続き嘱託として再雇用した場合や、パートタイム労働者であった者を正社員に切り替えた場合等実質的に労働関係が継続しているときは、継続年数に通算されます。

7 出勤率が8割以上か否かを算定する場合、

① 業務上の負傷又は疾病により休業した期間

② 産前産後の女性が労基法第65条の定めにより休業した期間

③ 育児・介護休業法に基づく育児・介護休業期間

④ 年次有給休暇を取得した期間

については出勤したものとして取扱う必要があります。

なお、本規程例第27条第2項に定める生理休暇について、年次有給休暇の出勤率の算定に当たって出勤したものとみなすことも、もちろん差し支えありません。

8 出勤率が8割に達しなかったときの翌年度は、年次有給休暇を与えなくても差し支えありません。この場合、年次有給休暇を与えなかった年度の出勤率が8割以上となったときは、次の年度には本条に定める継続勤務期間に応じた日数の年次有給休暇を与えなければなりません。

9 年次有給休暇は日単位で取得することが原則ですが、労働者が希望し、使用者が同意した場合であれば半日単位で与えることが可能です。また、事前に年次有給休暇を買い上げて労働者に休暇を与えないことは法違反となります。

なお、年次有給休暇の請求権は、消滅時効が2年間であるため、前年度分について繰り越す必要があります。

10 年次有給休暇は、計画的付与の場合を除き、労働者の請求する時季に与えなければなりません。

ただし、労働者が請求した時季に年次有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、使用者は他の時季に変更することができます(労基法第39条第5項)。

11 本条第4項に定める年次有給休暇の計画的付与制度とは、労働者代表との間で労使協定を結んだ場合、最低5日間は労働者が自由に取得できる日数として残し、5日を超える部分について、協定で年次有給休暇を与える時季を定めて労働者に計画的に取得させるものです(労基法第39条第6項)。

12 年次有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額や精皆勤手当、賞与の額の算定に際しての年次有給休暇取得日を欠勤として取扱う等の不利益な取扱いをしてはいけません(労基法附則第136条)

☆実際の運用における留意点

上記モデル条文や付属解説に記載されている事項以外にも押さえておく必要がある点についてご説明します。適正な労働環境の整備にお役立てください。

1 有期契約労働者も対象となる年次有給休暇の取得義務

使用者は、10日以上の年次有給休暇が付与される全ての労働者に対し、毎年5日間の有給休暇を取得させる義務があります。この場合の「労働者」には、有期契約の労働者も含まれる点に注意が必要です。

2 年次有給休暇取得権の法的性質

年次有給休暇(以下、年休)を取得する権利は、法定の要件を満たせば法律上当然に発生するものです。そのため、年休の取得目的に関わらず、使用者がその取得を制限することはできません。

3 半日単位での年休の取扱い

原則として年休は1労働日(暦日)単位で付与されます。ただし、労働者の希望があり、使用者がこれに同意した場合には、半日単位での年休取得も可能です。

これは本来の取得方法による年休取得を阻害しない範囲で運用される必要があります。

4 年休届出の一定期間設定の適法性

年休取得について、一定日数前までに届出を義務づけることは適法とされています。これは、使用者が時季変更権を行使するか否かを判断するために必要な時間的余裕を確保する目的です。

5 年休届出が就業規則で定めた締切を過ぎた場合の対応

就業規則で「3日前までに年休取得の届出を行うこと」を義務付けている場合でも、例えば、前日に年休取得の届出があった際に、それを理由として休暇取得を拒否することはできません。

使用者は、請求された時季に年休を与えることで事業の正常な運営が妨げられる場合のみ、時季変更権を行使できます。

6 時季変更権行使の要件

使用者が時季変更権を行使する際には、労働者が指定した時季に他の労働者による代替が可能である場合、使用者は代替要員確保のために合理的な努力をしなければなりません。

この努力を怠った場合には、時季変更権の行使は認められません。

まとめ

年次有給休暇は、労働者に認められた重要な制度であり、適切な取得が確保されることが求められます。

使用者は、届出期限や時季変更権の扱いについて法律の趣旨を踏まえ、公平で柔軟な運用を心がけることが重要です。

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