就業規則とは? ~モデル就業規則第6条(試用期間)・第7条(労働条件の明示)を用いて留意点を説明~

今回は、モデル就業規則の第6条と第7条の内容と、それぞれの留意点について解説していきます。

まず、モデル就業規則の第6条とその付属解説は以下のとおりです。

☆モデル就業規則「第6条 試用期間」と「付属解説」

(試用期間)

第6条 労働者として新たに採用した者については、採用した日から○か月間を試用期間とする。

2 前項について、会社が特に認めたときは、試用期間を短縮し、又は設けないことがある。

3 試用期間中に労働者として不適格と認めた者は、解雇することがある。ただし、入社後14日を経過した者については、第53条第2項に定める手続によって行う。

4 試用期間は、勤続年数に通算する。

【第6条 試用期間】

1 試用期間を設ける場合にその期間の長さに関する定めは労基法上ありませんが、労働者の地位を不安定にすることから、あまりに長い期間を試用期間とすることは好ましくありません。

2 試用期間中の解雇については、最初の14日間以内であれば即時に解雇することができますが、試用期間中の者も14日を超えて雇用した後に解雇する場合には、原則として30日以上前に予告をしなければなりません。予告をしない場合には、平均賃金の30日分以上の解雇予告手当を支払うことが必要となります(労基法第20条、第21条)。

その他留意点

試用期間に関する就業規則を作成するに当たって、上記「モデル条文や付属解説」以外で注意すべき点をご紹介します。

ア 試用期間の意味

・試用期間は、従業員としての適格性を判断する期間と言われています。労基法上定められているわけではありません。

・ただ、多くの企業で正社員として採用する前に、試用期間を設け、その期間中の勤務態度、能力、性格等を見て、本採用を決定しています。

・最高裁では試用期間について「解雇権留保付契約」と判示しており、留保解約権に基づく解雇は、「これを通常の解雇と全く同一に論ずることはできず、(略)広い範囲における解雇の自由が認められて然るべき。」と判じています。

・とはいえ、試用期間中でも解雇する場合はあくまで客観的合理性、社会通念上の相当性が求められることに注意が必要です(後述)。

イ 試用期間の長さ

・試用期間は解約権が留保されている期間であることから、従業員は不安定な地位に置かれていることになります。

・そのため、試用期間を「3か月」としている例も見られますが、適格性を見極めるには短いと思われますので、6か月程度が妥当ではないかと思われます。

・ただし、あまりに長い期間(1年超など)を試用期間と設定することは、不当に長い試用期間として取り扱われる可能性があります。

ウ 試用期間の延長

・当初定めた試用期間内に適格性を判断できなかった場合、試用期間を延長することが考えられますが、そのためには延長することについて、就業規則に記載しておく必要があります。就業規則に延長規定がなければ裁判上認められない可能性があります。

・なお、延長するに際しては、契約締結時に予見し得なかった事情があったなどの合理的な理由が必要です。

エ 試用期間中の解雇

・試用期間中の解雇は、解約権が広範に留保されているとはいえ、雇用主に優越的地位があることから、あくまで客観的合理性、社会通念上の相当性が求められます。トラブルを防ぐためにも、試用期間中の解雇について、あらかじめ就業規則に具体的な規定をしておくべきかと思われます。

・なお、当該規定に抵触する事由が生じた場合でも直ちに解雇が認められるわけではなく、改善に向けた指導が求められるので注意が必要です。

オ 解雇予告等

・試用期間中の解雇については、最初の14日間以内であれば即時に解雇することができますが、試用期間中の者も14日を超えて雇用した後に解雇する場合には、原則として30日以上前に予告をしなければなりません。

・予告をしない場合には、平均賃金の30日分以上の解雇予告手当を支払うことが必要となります(労基法第20条、第21条)。

カ 試用期間の通算

・試用期間でも労働契約そのものは成立していることから、勤務年数は通算されます。年次有給休暇の付与における継続勤務に含まれます。

☆モデル就業規則「第7条 労働条件の明示」と「付属解説」

モデル就業規則の第7条とその付属解説は以下のとおりです。

(労働条件の明示)

第7条 会社は、労働者を採用するとき、採用時の賃金、就業場所、従事する業務、労働時間、休日、その他の労働条件を記した労働条件通知書及びこの規則を交付して労働条件を明示するものとする。

【第7条 労働条件の明示】

1 労働者を雇い入れるに際し、労働者に賃金、労働時間、その他の労働条件を明示することが必要です。特に、労働条件を明示するに当たり、次の(1)から(6)までの項目(昇給に関する事項を除く)については、原則書面の交付により明示する必要があります(労基法第15条、労基則第5条)。

(1) 労働契約の期間に関する事項 (2) 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項(期間の定めのある労働契約を更新する場合に限る) (3) 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項 (4) 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに交替制により就業させる場合における就業時転換に関する事項 (5) 賃金(退職手当及び臨時に支払われる賃金等を除く。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項

労働者が以下のいずれかの方法を希望した場合には、当該方法により労働条件の明示を行うことができます。

・ ファクシミリを利用して送信する方法

・ 電子メールその他のその受信をする者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信(有線、無線その他の電磁的方法により、符号、音響、又は影像を送り、伝え、又は受けることをいう。以下「電子メール等」という。)の送信の方法(当該労働者が当該電子メール等の記録を出力することにより書面を作成することができるものに限る。)

※「電子メール等」には以下が含まれます。

① Eメール、Yahoo!メールやGmail等のウェブメールサービス

② +メッセージ等のRCS(リッチ・コミュニケーション・サービス)や、SMS(ショート・メール・サービス)

③ LINEやFacebook等のSNSメッセージ機能

ただし、ブログやホームページへの書き込みのように、特定の個人がその入力する情報を電気通信を利用して第三者に閲覧させることに付随して、当該第三者が当該個人に対し情報を伝達することができる機能が提供されるものについては、「その受信する者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信」には含まれないため、この方法により労働条件の明示を行うことはできません。

さらに、パートタイム・有期雇用労働者については、雇入れに際して、昇給、退職手当、賞与の有無、相談窓口についても文書の交付等により明示しなければなりません(パートタイム・有期雇用労働法第6条第1項)。

2 また、採用内定により労働契約が成立していると解される場合がありますが、この場合には、採用内定に際して、内定者に労働条件を書面で明示する必要があります。

その他留意点

労働条件の明示に関する就業規則を作成するに当たって、上記「モデル条文や付属解説」以外で注意すべき点をご紹介します。

ア 採用の意味

・採用とは、従業員として雇い入れることですので、雇用契約を締結することを意味します。

イ 労働条件の明示

・労働契約の締結にあたって、労働条件の一定の項目については、「必ず書面により明示しなければならない」と規定しています(労働基準法第15条第1項)。

・一方、労働契約法では、労働基準法で明示が義務づけられている以外の事項も含めて「できる限り書面により確認するもの」と規定しています(労働契約法第4条第2項)。

ウ R6労働契約法改正内容

・R6年4月労働契約法の改正で、

  • 全ての労働契約の締結時と有期労働契約の更新時に「就業場所・業務変更の範囲」について示すこと、
  • 有期労働契約の締結時と更新時に「更新上限の有無と内容」について示すこと、
  • 無期転換ルールに基づく無期転換申し込み権が発生する契約の更新時に「無期転換申し込み機会」と「無期転換後の労働条件」を示すことが追加されております。
  • エ 内定に関する規定
  • ・上記モデル就業規則では内定については記載されておりませんが、企業によっては、内定及び内定取り消しについて就業規則に記載する例も見られます。
  • ・裁判例では、事業主の求人に対する求職者の応募が雇用契約の申し込みであり、これに対する事業主からの採用内容の通知は申し込みの承諾であるとして、内定通知に段階で雇用契約が成立するとしています。

 内定通知

・内定通知について、最高裁は「契約申込みに対する使用者の承諾」にあたり、誓約書の提出と相まって「始期付解雇権留保付労働契約」が成立したと示しています(大日本印刷事件:最判S54.7.20)。

・採用内定により労働契約が成立している場合には、この労働条件の明示も採用内定時に行わなければならないことになります。

オ 内定の取り消し

・採用内定を取り消すことは、労働契約の解消にあたり、解雇権濫用法理(労働契約法第16条)の適用になりますから、客観的に合理的な理由と、社会通念上相当であると認められることが必要になります。

・判例では「採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取り消すことが(略)社会通念上相当として是認することができる場合を含む。」(大日本印刷事件:最判S54.7.20)としています。

まとめ

試用期間や労働条件の明示は、採用プロセスにおいて非常に重要であり、就業規則に具体的に規定し、適切な手続きで対応することが、企業の信頼性と労務管理の円滑化につながります。

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