
2024年11月に施行される「フリーランス新法」は、フリーランスと発注事業者の間で行われる業務委託取引の透明性を確保し、取引の適正化と就業環境の整備を図ることを目的とした法律です。
特に、フリーランスの方が不利な立場に置かれることを防ぐため、取引条件の明示や報酬支払い、ハラスメント防止などの規定を設けています。
以下に、この法律の詳細と背景をわかりやすく解説します。
1 フリーランスの実態と課題
まず、日本におけるフリーランスの現状です。
フリーランスとは、企業などの組織に所属せず、個人として業務を受託する働き方を指します。
2020年に内閣官房が実施した調査によると、日本では約462万人がフリーランスとして働いており、デザイン・映像制作やIT関連、営業、コンサルタント、生活関連サービス、現場作業など、多種多様な業種で活躍しています。
しかし、フリーランスの約4割が、発注事業者からの一方的なキャンセルや報酬の不払いといったトラブルに巻き込まれた経験があるという現状が、2021年のアンケート調査で明らかになりました。
また、4割を超えるフリーランスが、取引条件や業務内容が書面や電子メールで十分に提示されていない、または全く示されていないと感じています。
さらに、フリーランス・トラブル110番には、パワハラやセクハラなど、発注者からのハラスメントに関する相談も寄せられています。
このような背景から、フリーランスが取引において不利な立場に置かれないよう、交渉力や情報格差を是正するための法的枠組みが求められてきました。
2 フリーランス新法の目的と意義
この法律の目的は、フリーランスと発注事業者との間で業務委託契約を適正に行うための最低限のルールを業種横断的に設けることで、フリーランスの権利を保護し、取引の公正性を確保することです。具体的には、以下の2点が主な目的です。
●取引の適正化
業務委託の契約内容を明確にし、取引条件を適正に管理することで、フリーランスが不利益を被ることのないようにする。
●就業環境の整備
ハラスメント防止や報酬の適切な支払いを義務付けることで、フリーランスが安心して働ける環境を整える。
3 法律の適用対象
この法律は、「特定受託事業者」と「特定業務委託事業者」を対象としています。特定受託事業者とは、従業員を使用しないフリーランスのことで、個人で事業を行っている人々が該当します。一方、特定業務委託事業者とは、業務をフリーランスに委託する発注事業者で、従業員を雇用している企業や組織がこれに該当します。
取引の対象となるのは、事業者間取引、すなわちBtoB取引に限られます。対して、消費者が家族写真の撮影を依頼する場合はBtoC取引となり、この法律の適用外となります。また、商品の販売行為(例:フリーランスが自身の写真集を販売する場合)も、この法律の適用外です。
4 主要な規制内容
フリーランス新法の主要な規制は、以下の2つの柱で構成されています。
(1) 取引の適正化(第3条~第5条)
●取引条件の明示義務(第3条)
発注事業者は、フリーランスに業務を委託する場合、業務の内容や報酬額、支払期日などの取引条件を、書面またはメールなどの電子的手段で明示しなければなりません。この明示義務は、フリーランス同士の取引にも適用されますので、注意が必要です。
●報酬支払義務(第4条)
発注事業者は、業務完了後、原則として60日以内に報酬を支払う義務があります。これは、下請法(下請取引に関する法律)の規定にも同様の規定があり、フリーランスの経済的安定を確保するための措置です。
●禁止行為(第5条)
発注事業者は、フリーランスに対して以下の行為をしてはなりません。
① 特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく受領を拒否すること
② 特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく報酬を減額すること
③ 特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく返品を行うこと
④ 通常相場に比べ著しく低い報酬の額を不当に定めること
⑤ 正当な理由なく自己の指定する物の購入・役務の利用を強制すること
⑥ 自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること
⑦ 特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく内容を変更させ、又はやり直させること(2) 就業環境の整備(第12条~第16条)
●募集情報の的確表示義務(第12条)
発注事業者は、フリーランスに業務委託を募集する際、虚偽の表示や誤解を招く表示を行ってはならず、正確かつ最新の内容を提示する義務があります。
●育児・介護等との両立に関する配慮義務(第13条)
発注事業者は、フリーランスが育児や介護を両立できるよう、就業時間や働き方の柔軟性を確保するための配慮を行う必要があります。
●ハラスメント対策(第14条)
発注事業者は、フリーランスに対するセクハラ、パワハラ、妊娠・出産に関連するハラスメントを防止するための体制を整備し、相談窓口の設置などを行う義務があります。また、ハラスメントに関する相談を行ったフリーランスに対して不利益な取扱いをしてはなりません。
●中途解除等の事前予告義務(第16条)
契約期間中の解除や契約更新をしない場合、発注事業者は少なくとも30日前に予告し、フリーランスからの求めに応じて理由を明示する義務があります。
5 違反行為への対応
この法律に違反した場合、フリーランスは公正取引委員会や厚生労働省、中小企業庁へ申告することができます。違反が確認された場合、行政機関は発注事業者に対して指導・助言、勧告を行い、従わない場合は命令や公表も行われる可能性があります。
6 相談窓口の対応
トラブルに関しては、2020年から設置されている「フリーランス・トラブル110番」が相談窓口として機能しています。ここでは、弁護士による相談や、和解のあっせんを行っており、必要に応じて行政機関への申告案内も提供します。
まとめ
フリーランス新法は、フリーランスの労働環境や取引条件の改善を目的とした法律です。フリーランスの方や発注事業者は、この法律の内容を十分理解し、適切な取引と健全な就業環境の整備に努めることが求められます。
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