今後予定されている雇用保険法等の改正について(概要)

雇用保険法や育児介護休業法の改正は、企業経営に大きな影響を及ぼします。

そのため、今後どのような改正が行われるのか、ポイントはどこにあるのか、気になる方も多いのではないでしょうか。

今回は、雇用保険や育児・介護支援の充実を図るために予定されている改正内容について、わかりやすく解説していきます。

1 高年齢雇用継続給付の見直し【2025年4月施行】

高齢者が働き続けるために支給されていた「高年齢雇用継続給付」が、2025年から見直されます。具体的には、60歳を超えた労働者に対する給付率が現在の15%から10%に縮小される予定です。これは、65歳までの雇用が確保される傾向が強まったため、その必要性が薄れてきたことが背景にあります。

<改正前>

(対象者・支給要件)

・被保険者であった期間が5年以上ある60歳以上65歳未満の労働者

・60歳以後の各月に支払われる賃金が原則として60歳時点の賃金額の75%未満

(支給期間)

65歳に達するまでの期間について、60歳以後の各月の賃金の15%を支給。

<改正後>

R7年度(2025年度)から新たに60歳になる労働者に対して、給付率を10%に縮小。

2 自己都合離職者の給付制限の見直し【2025年4月施行】

現在、自己都合で退職した場合、失業給付の支給までに最大2ヶ月の給付制限がありますが、これが1ヶ月に短縮されます。さらに、自己研鑽として教育訓練を受けた場合、給付制限が解除される仕組みが導入されます。これにより、リスキリングや再就職を促進する環境が整えられることが期待されています。

<現状>

自己都合離職者に対しては、失業給付(基本手当)の受給に当たって、待期(7日間)満了の翌日から原則2ヶ月間(5年以内に2回を超える場合は3ヶ月)の給付制限期間アリ

<見直し>

・離職期間中や離職日前1年以内に、自ら雇用の安定及び就職の促進に資する教育訓練を行った場合には、給付制限を解除。

・原則の給付制限期間を2ヶ月から1ヶ月へ短縮。ただし、5年間で3回以上の自己都合離職の場合には給付制限期間を3ヶ月とする。

3 育児時短就業給付金の創設【2025年4月施行】

新たに「育児時短就業給付金」が導入され、2歳未満の子どもを育てながら短時間勤務を選択した場合に、給与の10%が支給される制度が始まります。これにより、育児と仕事の両立をサポートし、柔軟な働き方が促進されます。

<現状>

・現状では、育児のための短時間勤務制度を選択して、賃金が低下した労働者に対してその低下分を補填する給付制度はない。

<見直し>

・被保険者が、2歳未満の子を養育するために、時短勤務をしている場合、時短勤務中に支払われた賃金額の10%を給付

4 仕事と育児の両立支援【2025年4月施行】

育児と仕事の両立をさらにサポートするための制度が強化されます。例えば、小学校入学前の子どもを育てる親に対して、残業の免除など、柔軟な働き方を支援する施策が企業に義務化されます。

ア 3歳以上の小学校就学前の子を養育する労働者に関し、柔軟な働き方を実現するための措置を講じることの義務付け。(※)

(※)「始業時刻等の変更」、「テレワーク」、「短時間勤務」、「新たな休暇の付与」、「その他働きながら子を養育しやすくするための措置」のうち事業主が2つを選択

イ 所定外労働の制限 (残業免除) の対象となる労働者の範囲を、3歳になるまで⇒ 小学校就学前まで拡大

ウ 子の看護休暇の対象となる子の範囲 小学校就学前⇒小学校3年生まで拡大。「子の行事参加等」の場合も取得可能とする。

エ 3歳になるまでの子を養育する労働者に関し事業主が講ずる措置(努力義務)の内容に、「テレワーク」を追加。

オ 妊娠・出産の申出時や子が3歳になる前に、労働者の仕事と育児の両立に関する個別の意向の聴取・配慮を事業主に義務付ける。

5 仕事と介護の両立支援【2025年4月施行】

家族の介護と仕事を両立するための支援策も強化されます。例えば、介護が必要な場合に、企業が早期に支援策を提供することや、テレワークの導入が努力義務化されます。

ア 労働者が家族の介護に直面した旨を申し出た時に、両立支援制度等について個別の周知・意向確認を行うことを事業主に義務付ける。

イ 労働者等への両立支援制度等に関する早期の情報提供や、雇用環境の整備(労働者への研修等)を事業主に義務付ける。

ウ 介護休暇について、勤続6月未満の労働者を労使協定に基づき除外する仕組みを廃止する。

エ 家族を介護する労働者に関し事業主が講ずる措置(努力義務)の内容に、テレワークを追加する。

6 教育訓練休暇給付金の創設【2025年10月施行】

教育訓練に専念するために無給で休暇を取る場合、その間の生活費を支援する「教育訓練休暇給付金」が新設されます。これにより、キャリアアップやスキルアップに取り組む労働者を強力に支援することが可能になります。

要件内容
対象者・雇用保険被保険者
支給要件・教育訓練のための休暇(無給)を取得すること。 ・被保険者期間が5年以上あること。
給付内容・離職した場合に支給される基本手当の額と同じ。 ・給付日数は、被保険者期間に応じて90日、120日、150日のいずれか。
国庫負担・給付に要する費用の1/4又は1/40(基本手当と同じ)

7 障害者法定雇用率の見直し【2026年7月施行】

障害者を雇用する義務がある企業に対して、法定雇用率が引き上げられます。民間企業の場合、2026年には現在の2.5%から2.7%に引き上げられ、より多くの企業が障害者雇用に取り組むことが求められます。

 令和6年4月令和8年7月
民間企業の法定雇用率2.5%       ⇒2.7%
対象事業主の範囲40.0人以上37.5人以上

▶障害者を雇用しなければならない対象事業主の義務

◆ 毎年6月1日時点での障害者雇用状況のハローワークへの報告

◆ 障害者の雇用の促進と継続を図るための「障害者雇用推進者」の選任(努力義務)

<障害者雇用における障害者の算定方法>

▶精神障害者の算定特例の延長(令和5年4月以降)

週所定労働時間が20時間以上30時間未満の精神障害者について、当分の間、雇用率上、雇入れからの期間等に関係なく、1カウントとして算定

▶ 一部の週所定労働時間20時間未満の方の雇用率への算定(令和6年4月以降)。

週所定労働時間が10時間以上20時間未満の精神障害者、重度身体障害者及び重度知的障害者について、雇用率上、0.5カウントとして算定

8 雇用保険の適用拡大【2028年10月施行】

最後に、雇用保険の適用範囲が拡大されます。現在、週20時間以上働く労働者が対象となっていますが、2028年からは週10時間以上働く労働者にも適用されるようになります。これにより、パートタイムや短時間勤務の労働者も、より広く雇用保険の恩恵を受けられるようになります。

○適用範囲拡大にともない、週所定20時間を基準に設定されている基準を現行の1/2に改正

 改正前改正後
被保険者期間の算定基準賃金の支払の基礎となった日数が11日以上又は賃金の支払の基礎となった労働時間数が80時間以上ある場合を1月とカウント賃金の支払の基礎となった日数が6日以上又は 賃金の支払の基礎となった労働時間数が40時間以上ある場合を1月とカウント
失業認定基準労働した場合であっても1日の労働時間が4時間未満にとどまる場合は失業日と認定労働した場合であっても1日の労働時間が2時間未満にとどまる場合は失 業日と認定
法定の賃金日額の下限額①
最低賃金日額②
給付率が80%とな る点)の額の2分の1 ②最低賃金(全国加重平均)で週20時間を働いた場合を基礎として設定①給付率が80%となるの額の4分の1 ②最低賃金(全国加重平均)で週10時間を働いた場合を基礎として設定

これらの改正によって、多様な働き方を支えるためのセーフティネットがさらに強化され、リスキリングやキャリアアップ、育児・介護との両立がしやすくなると思われます。働く環境の改善や個人のキャリア成長を目指す方にとって、今後の動向にますます注目していく必要があります。

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