
現在、厚生労働省の労働政策審議会(労働条件分科会)では、日本企業が直面している経済社会の変化を踏まえ、雇用管理や労務管理の見直しに向けた議論が進められています。その一環として、新しい働き方に対応するための労働法の整備に関する報告書が公表されました。本報告書では、今後の労働基準法制の課題と目指すべき方向性がとりまとめられていますので、その概要をご紹介いたします。
1 経済社会の環境や労働市場の変化
【企業を取り巻く環境の変化】←新たなビジネスモデル、企業の不確実性の増加
・経済のグローバル化やデジタル化の進展
・国際政治の不安定化
・コロナ禍による社会変化
・国際競争の激化や市場の不安定化
・次世代のインターネット技術や生成AI(ChatGPTなど)の進展
【労働市場】←求められる労働力不足への対応
・少子高齢化による労働力不足の深刻化、特に現役世代の減少
・女性や高齢者の労働参加が増えたものの、全体としては就業者数が減少
【働く人々の意識】
・仕事に対する価値観やライフスタイルの個別・多様化
・リモートワークの普及などによる働く場所や時間、就業形態を選べる働き方の要求
2 現行法上の課題と必要な視点
【現行法の特徴と課題】
・現行の労働基準法制は、工場法などがベース。最低労働条件を定め、企業と労働者の力関係の不均衡を解消するために設計されたもの。
・同じ場所で画一的に働く集団を想定しており、個人事業主やフリーランス、リモートワーカーには適用されていないこと。
・働き方が多様化する中で、現行法がカバーしきれない部分が増えていること。
【これからの課題】
・技術革新や社会の変化により、働く場所や時間が柔軟になり、副業や兼業、リモートワークが一般化していること。
・労働基準法制が従来の「労働者」や「事業場」という枠組みを超える働き方が増加しており、法の適用範囲や単位に関する再検討が求められていること。
【必要と考える2つの視点】
●「守る」視点
・すべての労働者が心身の健康を維持し、幸せに働き続けられること。
・労働基準法の基本原則を堅持すること。
・変化する環境下でも労働者の健康や安全を守ることが最優先であること。
●「支える」視点
・労働者が柔軟な働き方やキャリア形成を実現できるようにすること。
・そのため、企業と労働者のコミュニケーションを支援し、個々の希望に応じた働き方を「支える」ための法制度が必要であること。
・特に、自発的なキャリア形成を促進するための環境整備が求められていること。
3 基本的考え方と具体的な進め方
【変わらない基本的な考え方】
・均等待遇や男女同一賃金、長時間労働の抑制など労働基準法の基本原則は、経済社会の変化や働き方の多様化にかかわらず、全ての労働者に対して守るべき基盤として堅持されるべき。
【働く人の健康確保】
・働く人の健康管理は、どのような働き方でも重要であること。
・多様な働き方の広がりによる健康リスクに対処すべきであること。
・自分自身による健康管理、自由な働き方に伴うリスクへの対処も必要であること。
【働く人の選択・希望を反映する制度】
・労働者が自らの希望やキャリアに応じた働き方を選べるように、労働基準法の見直しが必要であること。
・従来の枠組みに収まらない働き方にも対応すること。
・労使間のコミュニケーションが重要であり、個々の働き方に合わせた制度設計が必要であること。
【シンプルで実効的な制度】
・法制度を分かりやすくし、労使双方が理解・納得できるものにすること
・労使コミュニケーションを通じて、労働条件や制度の透明性を高めること。
【基本的概念の見直し】
労働基準法の「労働者」や「事業場」という概念を必要に応じて見直すこと。
【従来の働き方の保護】
これまでの制度を適用しつつ、新しい働き方とのバランスを取ること。
【労働基準監督行政の強化】
・労働基準監督署の体制を強化し、効果的に監督指導を行うこと。
・企業による自主的な改善が促進されること。
報告書の中では、時代に即した柔軟な働き方をサポートしつつ、働く人の健康と安全を確保する法制の方向性が示されています。
4 企業や働く人への期待
【企業への期待】
・働く人がキャリア形成と健康管理を両立できる環境を整備すること
・人的資本投資を強化し、働く人の能力開発やキャリア形成を支援すること。
・働く人が安心して学び、成長できる時間や機会の提供すること。
・情報の提供と透明性を確保し、働く人に健康管理やキャリア形成に必要な情報を開示すること。
【働く人への期待】
・自らのライフスタイルやキャリアの方向性を意識し、自ら選んで働くこと。
・業務遂行や健康管理において、自らを管理する能力を高めること。
・労働市場で求められるスキルを明確にし、積極的に自己研鑽を行うこと。
・労働基準法制を正しく理解し、自身のキャリア形成に役立てること。
まとめ
以上、時代に即した柔軟な働き方をサポートしつつ、働く人の健康と安全を確保する法制の方向性と、未来を担う全ての人々に向け、働き方の多様化やキャリア形成に対するメッセージと提言がまとめられております。
↓