R6年度介護報酬改定 ~高齢者施設等と医療機関の連携強化~

医療ニーズを持つ入所者に適切な医療を提供し、必要に応じて医療機関との連携を強化するため、また施設内で対応できない医療が求められる場合に迅速かつ適切な対応ができるように、在宅医療や急変時の連携強化、医療機関への情報提供体制の見直し、緊急時対応の整備など、高齢者施設全体での取り組みが強化されました。

1 協力医療機関との連携体制の構築

【特定施設入居者生活介護、地域密着型特定施設入居者生活介護、認知症対応型共同生活介護の場合】

高齢者施設内で対応できない医療が必要な場合、在宅医療を提供する医療機関や地域の医療機関との連携を強化し、適切な医療対応ができるように見直されました。

・協力医療機関を定めるように努めるとともに、その医療機関は、利用者の急変時に医師や看護職員が常時対応でき、診療の要請に応じて診療を行う体制を整えていること

・1年に1回以上、協力医療機関と対応内容を確認し、自治体に医療機関の名称等を報告すること

・利用者が退院可能になった際には、速やかに再入居を行うよう努めること

【介護老人福祉施設、地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護、介護老人保健施設、介護医療院の場合】

施設内で対応できない医療ニーズに対して、在宅医療や地域の医療機関と連携してより適切な医療対応ができる体制を構築します。

・協力医療機関を定めるとともに(義務付け期限3年)、当医療機関は入所者の急変時に医師や看護職員が常時対応し、診療要請に応じて診療を行うほか、必要な場合は入院を受け入れる体制を確保していること

・1年に1回以上、協力医療機関との対応確認を行い、自治体に医療機関の名称等を報告すること

・入所者が退院可能になった際には、速やかに再入所を行うよう努めること

2 協力医療機関との定期的な会議の実施

介護施設における入所者の医療ニーズに対応し、協力医療機関との連携体制を強化するため、特に、入所者の急変時に迅速かつ適切な対応ができるよう、定期的な情報共有と会議を行う取り組みが強化され、新たな加算も導入されています。

また、特定施設入居者生活介護等における医療機関連携加算について、定期的な会議において入居者の現病歴等の情報共有を行うよう見直しが行われました。

【介護老人福祉施設・介護老人保健施設・介護医療院の場合】

現行制度では、これらの施設には医療機関連携加算がありませんでしたが、改定後は以下のように変わります。

協力医療機関連携加算(令和6年度)

・協力医療機関が以下の要件を満たす場合

100単位/月(令和7年度以降は50単位/月)

・協力医療機関が要件を満たさない場合

5単位/月

【特定施設入居者生活介護・地域密着型特定施設入居者生活介護の場合】

現行の医療機関連携加算(80単位/月)が改定され、以下のようになります。

協力医療機関連携加算(改定後)

・協力医療機関が要件を満たす場合: 100単位/月

・要件を満たさない場合: 40単位/月

【認知症対応型共同生活介護の場合】

現行では加算はありませんでしたが、改定後は新設されました。

協力医療機関連携加算(新設)

・協力医療機関が要件を満たす場合: 100単位/月

・要件を満たさない場合: 40単位/月

<協力医療機関の要件>

・入所者の病状が急変した際、医師や看護職員が常時相談対応できる体制を確保していること。

・高齢者施設からの診療要請があった際に、常時診療を行う体制を整えていること。

・急変時、入院が必要な場合には、原則として入院を受け入れる体制を持っていること。

3 入院時等の医療機関への情報提供

【介護老人保健施設および介護医療院の場合】

まず、介護老人保健施設および介護医療院では、入所者が医療機関へ退所した際に、その入所者の生活支援上の留意点や認知機能に関する情報を医療機関に提供することが、新たに評価されます。この情報提供は、退所後の療養に役立てるため、入所者の生活状況を把握した上での詳細な情報提供が求められます。

また、入所者が居宅に退所した場合も、退所後の主治医に診療状況や生活支援に関する情報を提供することが、算定要件として新たに追加されました。

新たな退所時情報提供加算の区分

今回の改定では、退所時情報提供加算が2つの区分に分かれています。

退所時情報提供加算(Ⅰ)

500単位/回

入所者が居宅へ退所した際に、主治医に対して診療情報や生活歴、心身の状況を提供した場合に適用されます。この情報提供は、入所者の同意を得た上で、1人につき1回限り算定されます。

退所時情報提供加算(Ⅱ)(新設)

250単位/回

入所者が医療機関へ退所した際に、医療機関に対して生活歴や心身の状況を提供した場合に適用されます。こちらも、入所者の同意を得た上で、1人につき1回限り算定されます。

【特定施設入居者生活介護★、地域密着型特定施設入居者生活介護、認知症対応型共同生活介護★、介護老人福祉施設、地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護の場合】

これまで加算がなかった特定施設入居者生活介護や認知症対応型共同生活介護、介護老人福祉施設でも、入所者が医療機関へ退所する際の情報提供に対して、250単位/回の加算が新設されました。

この加算は、入所者が医療機関での適切な療養を受けられるよう、退所後の医療機関に対して生活歴や心身の状況などの必要な情報を提供する場合に適用されます。

4 介護老人福祉施設等における緊急時等の対応方法の定期的な見直し

【介護老人福祉施設、地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護】

介護老人福祉施設などでは、入所者の急変時に迅速かつ適切な対応ができる体制が求められています。今回の改定では、緊急時の対応方法をさらに強化するため、配置医師や協力医療機関と連携した対応が求められ、1年に1回以上の定期的な見直しも義務化されました。

現行制度と改定内容の比較

・現行制度では、介護老人福祉施設において入所者の病状急変時に備えて、あらかじめ配置医師と連携した対応方法を定めることが義務付けられていました。しかし、協力医療機関との関係は明確に規定されていませんでした。↓

改定後の対応強化

・緊急時対応方法の策定

施設は、入所者の病状急変時に備えて、配置医師と協力医療機関の協力を得た緊急対応方法をあらかじめ定めます。

・年に1回の定期的な見直し

配置医師と協力医療機関が連携し、1年に1回以上、緊急時対応方法を見直し、必要に応じて更新します。

5 介護老人保健施設における医療機関からの患者受入れの促進

【介護老人保健施設 】

急性期医療機関を退院した後、介護老人保健施設にスムーズに入所することは、要介護者のADL(日常生活動作)の低下を防ぐために非常に重要です。多くの場合、医療機関からの入所者は医療的に不安定な状態であることが多いため、適切なケアを提供するためには、空床情報の共有や早期受け入れ体制が整備されていることが求められます。

今回の初期加算区分の強化により、介護老人保健施設が地域の医療機関と連携し、患者の状態に応じた迅速な対応が評価される仕組みが整いつつあります。

改定前の状況では、初期加算は1日あたり30単位が算定されていましたが、今回の改定で新たな区分が追加され、2種類の初期加算が導入されました。

初期加算(Ⅰ)【新設】

1日あたり60単位が算定されるこの新しい区分は、以下の条件を満たす介護老人保健施設に適用されます。

・施設の空床情報を地域医療情報連携ネットワークなどのシステムを通じて定期的に地域の医療機関と共有していること。

・空床情報を施設のウェブサイトで定期的に公開し、急性期医療機関の入退院支援部門にも情報を定期的に提供していること。

さらに、急性期医療を担う病院の一般病棟に入院し、30日以内に退院して介護老人保健施設に入所した患者に対して、この加算が適用されます。

ただし、「初期加算(Ⅱ)」を算定している場合、重複して算定することはできません。

初期加算(Ⅱ)

1日あたり30単位の加算は、入所後30日以内の期間に適用されます。ただし、「初期加算(Ⅰ)」が適用されている場合、この加算は算定されません。

まとめ

今回の改定では、介護施設と医療機関の連携が大幅に強化され、入所者の医療ニーズに迅速かつ適切に対応できる体制が整えられました。新たな加算制度の導入により、医療機関との協力体制を積極的に進める施設には報酬が充実し、質の高いケアを提供するためのインセンティブが強化されています。

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