就業規則とは? ~モデル就業規則第1条~第5条までを使って留意点を説明~

今回は、モデル就業規則の第1条から第5条までの内容と、それぞれの留意点について解説していきます。

☆モデル就業規則「第1条 目的」と「付属解説」

第1章 総則

(目的)

第1条 この就業規則(以下「規則」という。)は、労働基準法(以下「労基法」という。)第89条に基づき、 株式会社の労働者の就業に関する事項を定めるものである。

2 この規則に定めた事項のほか、就業に関する事項については、労基法その他の法令の定めによる。

【第1条 目的】

1 この就業規則規程例(以下「本規程例」といいます。)では、労働者の就業に関する事項を定めていますが、その前提にある法令上の基準は、労基法等関係法令に定められています。

2 本規程例に労働者の就業に関するすべての事項が定められているわけではありません。本規程例に定めがない事項については、労基法等関係法令の規定によることになります。

3 就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効となります。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準によることになります(労働契約法(平成19年法律第128号。以下「契約法」といいます。)第12条)。また、就業規則は法令又は事業場に適用される労働協約に反してはなりません(労基法第92条)。

その他留意点

ア 就業規則の法的拘束力と作成する目的

・就業規則には法的な拘束力があり、「秋北バス事件」(最判昭和43年)でもそのことが確認されています。また、労働基準法第2条第2項に基づき、労働者と使用者の双方に就業規則を守る義務が課されています。そのため、労使間の権利や義務を明確にすることが、就業規則を作成する大きな目的の一つです。

・ただし、この規定が、会社が法令上の義務を独自に負うと誤解される恐れがあるため、注意が必要です。可能であれば、最新の法令に合わせて就業規則を迅速に改正することが理想です。

イ 法改正への対応

労働法は頻繁に改正されるため、第2項のような補完的な規定が設けられています。ただし、常に最新の法令に合わせた改正が望ましいです。

☆モデル就業規則「第2条 適用範囲」と「付属解説」

(適用範囲)

第2条 この規則は、株式会社の労働者に適用する。

2 パートタイム労働者の就業に関する事項については、別に定めるところによる。

3 前項については、別に定める規則に定めのない事項は、この規則を適用する。

(適用範囲) 第2条 この規則は、 株式会社の労働者に適用する。 2 パートタイム労働者の就業に関する事項については、別に定めるところによる。 3 前項については、別に定める規則に定めのない事項は、この規則を適用する。

【第2条 適用範囲】

1 就業規則は、すべての労働者について作成する必要があります。しかし、就業規則は、必ずしもすべての労働者について同一のものでなければならないわけではありません。同一の事業場であっても、通常の労働者と勤務態様の異なるパートタイム労働者等については、一定の事項について特別の規定を設けたり、別の就業規則を定めます。パートタイム労働者等について、規程の一部を適用除外とする場合や全面的に適用除外とする場合には、就業規則本体にその旨明記し、パートタイム労働者等に適用される規定を設けたり、別の就業規則を作成しなければなりません。本規程例では、パートタイム労働者の就業に関する事項について、就業規則本体とは別に定める形式をとっています。パートタイム・有期雇用労働者の就業規則の規程例等は、こちら(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000046152.html)。

2 働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(平成30年法律第71号)による改正により、2020年4月(中小企業におけるパートタイム労働者、有期雇用労働者については2021年4月)より、パートタイム労働者や有期雇用労働者、派遣労働者の待遇について、職務内容、職務内容・配置の変更範囲等を考慮して、通常の労働者との間で不合理な待遇差を設けることは禁止されます(パートタイム・有期雇用労働法第8条、第9条及び労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和60年法律第88号)第30条の3)。これらの法律では、賃金だけでなく、福利厚生、休暇などすべての待遇が対象とされています。パートタイム労働者・有期雇用労働者と通常の労働者との間で、賃金等について取扱いに違いがある場合、パートタイム・有期雇用労働者から求められたときは、相違の内容及び理由について説明する必要があります。(パートタイム・有期雇用労働法第14条第2項)

その他留意点

ア 適用範囲の明確化

・就業規則を作成する大きな目的の一つは、労使間の権利や義務を明確にすることです。そのため、まずは就業規則の「適用範囲」をしっかりと定める必要があります。・しかし、企業にはさまざまな雇用形態の従業員がいる場合が多く(例:正社員、契約社員、パート、アルバイト、嘱託社員など)、それぞれに異なる待遇を設ける場合には、その定義を明確にした上で、雇用形態に応じた適切な就業規則を作成することが求められます。

・実際に、「同じ事業所内であっても、労働基準法第3条(均等待遇)に違反しない限り、一部の労働者に対してのみ適用される別個の就業規則を作成することは問題ない」という通達が出されています。また、この通達では、「就業規則の本則において、別個の就業規則が適用される労働者に関する適用除外規定や委任規定を設けることが望ましい」とされています(S63.3.14基発150)。

イ 不合理な差別の禁止

・さらに、雇用形態に応じて就業規則の適用範囲を分ける場合でも、正社員と非正規雇用労働者の間で、基本給や賞与などの待遇において不合理な差を設けることは禁止されています。これは「パートタイム・有期雇用労働法」に基づくもので、もしパートタイム労働者が正社員と異なる待遇にある場合、労働者からの説明要求に対して、その理由や内容を明確に説明する義務があります。

適切な就業規則を作成することで、企業内の秩序が保たれ、従業員の労働条件も守られます。企業は、各雇用形態に合った規則を整備し、法令に沿った運用を心がけることが重要です。

☆モデル就業規則「第3条 規則の遵守」と「付属解説」

(規則の遵守)

第3条 会社は、この規則に定める労働条件により、労働者に就業させる義務を負う。また、労働者は、この規則を遵守しなければならない。

その他留意点

労基法第2条において、労働者及び使用者は、就業規則等を遵守し、誠実に各々その義務を履行しなければならないと規定されています。ただ、ほとんどの従業員の方は労基法第2条のことは知らないはずですので、あえて就業規則に記載することで従業員の方に自覚を促すこともできます。

☆モデル就業規則「第4条 採用手続」と「付属解説」

☆モデル就業規則「第4条 採用手続」

(採用手続)

第4条 会社は、入社を希望する者の中から選考試験を行い、これに合格した者を採用する。

【第4条 採用手続】

1 会社は、労働者の採用に当たり、男女かかわりなく均等な機会を与えなければなりません(雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和47年法律第113号。以下「均等法」といいます。)第5条)。

2 合理的な理由がない場合に、労働者の採用において身長・体重・体力を要件とすること、転居を伴う転勤に応じることを要件とすること等は、間接差別として禁止されています(均等法第7条)。

その他留意点

ア 差別の禁止

・男女雇用機会均等法では性別による差別が禁止されており、障害者雇用促進法では障害者に対しても均等な雇用機会が求められていますので、採用に当たっては注意が必要になります。

・労働組合法では、組合加入の有無による差別も禁止されているため、これらの点に留意して採用を進める必要があります。

イ 提出書類の注意点

・さらに、面接時に提出させることが禁止されているものもあります。例えば、本籍地や出生地など、社会的差別につながる可能性のある情報、思想や信条、宗教に関すること、労働組合への加入状況などは聞いてはいけません。

ウ 間接差別

・また、合理的な理由がない限り、採用条件として身長や体重、体力を要求することも「間接差別」にあたり、禁止されています。

以上、採用は企業にとって重要なプロセスですが、法令をしっかりと理解し、適切に対応することで、公平な採用を実現し、トラブルを未然に防ぐことができます。

☆モデル就業規則「第5条 採用時の提出書類」と「付属解説」

(採用時の提出書類)

第5条 労働者として採用された者は、採用された日から週間以内に次の書類を提出しなければならない。

住民票記載事項証明書

自動車運転免許証の写し(有する場合に限る)

資格証明書の写し(資格を有する場合に限る)

その他会社が指定するもの

【第5条 採用時の提出書類】

会社は、労働者の年齢、現住所を確認するに当たり、労働者から戸籍謄本(抄本)や住民票の写しを提出させることは適切ではありません。住民票記載事項の証明書により処理することが適切です。また、提出させる書類については、その提出目的を労働者に説明し、明らかにしてください。

その他留意点

ア 年齢、住所を把握する書類

・採用が決まった従業員に関して、企業は年齢や住所を把握する必要があります。しかし、通達では、その際に戸籍謄本(抄本)や住民票の写しを求めるのではなく、「住民票記載事項証明書」で対応するのが適切とされています(昭和50年2月17日基発第83号通達)。出生地や本籍を確認する必要がないため、個人情報保護の観点からも適した方法です。

イ 身元保証人

・従業員の住所確認は、通勤手当の支給や住民税の源泉徴収といった実務のためだけでなく、万が一、従業員が不正を働いた際の損害賠償請求にも役立ちます。特に、損害賠償を本人以外に請求するために「身元保証人」を立てることがあります。

・この場合、身元保証人に確実に請求できるように、印鑑証明書を添付してもらうなどの手続きを行うこともあります。ただし、身元保証人への請求が認められた場合でも、必ずしも全額が保証されるわけではないので、その点も留意が必要です。

ウ マイナンバーカード

・さらに、企業は従業員のマイナンバーを源泉徴収や社会保険の手続きで使用しますが、その際は必ず利用目的を明示し、正しく収集することが重要です。また、社会保険関連の書類や卒業証明書など、その他必要な書類も提出してもらう必要があります。

以上、採用時の提出書類については、個人情報保護や法令遵守を意識しながら、適切に対応することが企業にとって大切です。

まとめ

就業規則の目的や適用範囲を明確にし、採用手続きや労働条件の公平性・公正性を確保すること、さらに採用時の書類提出についても個人情報保護に十分配慮することで、従業員との信頼関係が深まり、労務トラブルの防止につながります。

また、労働者に安心感を与えることで、スムーズな人材管理にも寄与します。

                  

      社会保険労務士・行政書士事務所 ワンストップサービス北海道