
今回は、モデル就業規則の第8条の内容とその留意点について解説していきます。
まず、モデル就業規則の第8条とその付属解説をご紹介します。
☆モデル就業規則「第8条 人事異動」と「付属解説」
(人事異動)
第8条 会社は、業務上必要がある場合に、労働者に対して就業する場所及び従事する業務の変更を命ずることがある。
2 会社は、業務上必要がある場合に、労働者を在籍のまま関係会社へ出向させることがある。
3 前2項の場合、労働者は正当な理由なくこれを拒むことはできない。
【第8条 人事異動】
1 労働者を採用した後、会社が業務上の理由から就業場所や従事する業務を変更することは、変更がない旨の特別な合意等がない限り可能です。しかしながら、労働者の意に沿わない就業場所等の変更を命じた場合、トラブルが生じ得ますので、本規則のように就業規則に明記しておくことが望ましいと言えます。もちろん、労働者の同意を得るようにすることが大切であることは言うまでもありません。
なお、労働者の就業場所を変更しようとする場合には、労働者の育児や介護の状況に配慮しなければなりません(育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(平成3年法律第76号。以下「育児・介護休業法」といいます。)第26条)
2 また、他の会社へ出向させることが想定される場合、出向に関する規定を設けておく必要があります。
その他留意点
人事異動に関する就業規則を作成するに当たって、上記「モデル条文や付属解説」以外で注意すべき点をご紹介します。
ア 人事異動に係る従業員の同意の要否
・人事異動(転勤や配置転換、出向など)については、過去の判例でも、業務の運営上必要性があり、不当な動機や目的がある場合を除き、従業員の同意なしに命ずることができるとしています。
・もっとも、「付属解説」にも書かれてありますが、リスク回避のため、業務運営上、人事異動が必要な場合は、人事異動が行われることについて、就業規則に明記しておくべきです。
イ 権限濫用の判断
・就業規則に明記したとしても、会社が人事異動を命じる権利は無制限に認められるものではなく、「業務上の必要がないのに転勤を命じた場合」や「不当な動機・目的をもってなされた場合」、「転勤により労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせる場合」と認められた場合は、人事権の権限濫用として違法とされる場合があります(労働契約法)。
・例えば、従業員が障害のある家族を介護していたり、本人に持病や障害がある場合、転勤による不利益が著しいとして権限濫用に当たるとされる可能性もあります。
ウ 育児休業中の者への配慮
・なお、育児中や介護中であることを以って、転勤させることはできないわけではありません。しかし、育児介護休業法では育児や介護の状況に配慮すべきと規定されていることに留意が必要です。
イ(権限濫用)やウ(育児休業中の者への配慮)に関することについては、必ずしも条文にして掲載しなければならないわけではありませんが、掲載しておくことで事業主の方でも人事異動命令の前に注意することができると同時に、従業員の方も安心することができると思います。
まとめ
人事異動に関する規定は、業務上の必要性を基盤にしつつ、従業員の生活環境や権利に配慮することが、企業と従業員の信頼関係を維持する上で重要です。
↓