
今回は、モデル就業規則の第17条(始業及び終業時刻の記録)のモデル条文とその留意点について解説していきます。
まず、モデル就業規則の第17条のモデル条文とそれぞれの付属解説をご紹介します。
☆モデル就業規則「第17条(始業及び終業時刻の記録)」及び「付属解説」
(始業及び終業時刻の記録)
第17条 労働者は、始業及び終業時にタイムカードを自ら打刻し、始業及び終業の時刻を記録しなければならない。
<付属解説>
【第17条 始業及び終業時刻の記録】
労働時間の管理については、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日策定)で、使用者が講ずべき措置が具体的に示されています。使用者は、このガイドラインを遵守し、労働時間を適正に把握する等適切な時間管理を行ってください。
なお、(略)平成31年4月から労働安全衛生法(昭和47年法律第57号。以下「安衛法」といいます。)第66条の8の3の規定に基づき事業者は、面接指導を実施するため、タイムカードによる記録、パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間(ログインからログアウトまでの時間)の記録等の客観的な方法その他の適切な方法により、労働者の労働時間の状況を把握しなければなりません(本規則第60条参照)。
☆モデル就業規則第17条 運用のポイント
1 労働時間の定義
労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令に服して労務を提供している時間を指します。出勤した時間から退勤した時間までの時間全てを指すわけではありません。
たとえば、始業前にオフィスに到着していても、指示を受けて業務を行っていない限り、それは労働時間に含まれません。逆に、業務のために行う準備や片付けについて指揮命令があった場合は労働時間になります。
2 業務開始と終了の時間管理
従業員は労働契約上、始業時刻に業務を開始し、終業時刻までに業務を終了する義務があります。終業時刻後も職場に残り続けることで、労働時間が不明瞭にならないよう、就業規則に「終業時刻後は速やかに退出する」旨の規定を設ける規定例もあります。
これにより、過度な残業を防ぐだけでなく、労働時間の透明性を高めることができます。
3 客観的な記録方法の採用
モデル条文にも記載のあるとおり、労働時間を客観的に記録するため、タイムカードや電子的な記録システムが広く使われています。いずれにしても、労働時間を明確にするため、本人が自ら正確に打刻することが重要です。
どうしても本人が記録できない状況では、上司に業務開始や終了時に報告するシステムを設けるケースもあります。
また、他の人が代わって記録することを禁止する規定を設けることで、記録の正確性が保たれます。
4 ユニフォームへの着替え時間と労働時間との関係
業務のために着用するユニフォームへの着替え時間が労働時間に含まれるか否かについて、判例では「業務のために必要な行為」とされ、労働時間に当たると判断されたケースがあります。
そのため、例えば「従業員は始業前に着替えておくこと」といった規定がある場合、着替え時間が労働時間に含まれていないとみなされ、労使トラブルに発展する可能性があります。
着替え時間など業務に密接に関係する行為については、労働時間についての誤解やトラブルを防ぐため、明確な規定と運用が求められます。
5 始業・終業時間外の業務対応
始業前、終業後、あるいは休日に行われる業務についても、労働者が勝手に行うことを防ぐため、使用者の許可を得る必要がある旨を明記することが大切です。
これにより、未申告の残業や不必要な業務遂行を防ぎ、労働時間の管理がより適切に行われます。
まとめ
モデル就業規則第17条は、労働時間の適正な把握を目的とした記録の適正化を規定する重要な条文です。
使用者はタイムカードやパソコンのログなど客観的な方法で正確に労働時間を記録する責任がありますが、適正な労働時間の把握を通じて、労働者の健康管理や労働条件の改善が図られ、労使間の信頼関係を維持することができます。
使用者は管理体制を整え、従業員も自己記録を徹底することで、労働時間に関するトラブルを未然に防ぎ、職場環境の健全化を促進することができるようになります。
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