
今回は、モデル就業規則の第12条~第15条のハラスメント関係のモデル条文とその留意点について解説していきます。
まず、モデル就業規則の第12条~第15条とその付属解説をご紹介します。
☆モデル就業規則「第12条(職場のパワーハラスメントの禁止)」、「第13条(セクシュアルハラスメントの禁止)」、「第14条(妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメントの禁止)」、「第15条(その他あらゆるハラスメントの禁止)」と「付属解説」
(職場のパワーハラスメントの禁止)
第12条 職務上の地位や人間関係などの職場内の優越的な関係を背景とした、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により、他の労働者の就業環境を害するようなことをしてはならない。
=付属解説=
【第12条 職場のパワーハラスメントの禁止】
職場におけるパワーハラスメントを防止するために、事業主は、雇用管理上必要な措置を講じなければならないこととされています(労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(昭和41年法律第132号。以下「労働施策総合推進法」といいます。)第30条の2)。
(セクシュアルハラスメントの禁止)
第13条 性的言動により、他の労働者に不利益や不快感を与えたり、就業環境を害するようなことをしてはならない。
=付属解説=
【第13条 セクシュアルハラスメントの禁止】
職場におけるセクシュアルハラスメントを防止するため、事業主は、雇用管理上必要な措置を講じなければならないこととされています(均等法第11条)。
(妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメントの禁止)
第14条 妊娠・出産等に関する言動及び妊娠・出産・育児・介護等に関する制度又は措置の利用に関する言動により、他の労働者の就業環境を害するようなことをしてはならない。
=付属解説=
【第14条 妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメントの禁止】
職場における妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメントを防止するため、事業主は、雇用管理上必要な措置を講じなければならないこととされています(均等法第11条の3、育児・介護休業法第25条)。
(その他あらゆるハラスメントの禁止)
第15条 第12条から前条までに規定するもののほか、性的指向・性自認に関する言動によるものなど職場におけるあらゆるハラスメントにより、他の労働者の就業環境を害するようなことをしてはならない。
【第15条 その他あらゆるハラスメントの禁止】
恋愛感情又は性的感情の対象となる性別についての指向のことを「性的指向」、自己の性別についての認識のことを「性自認」といいます。性的指向や性自認への理解を深め、差別的言動や嫌がらせ(ハラスメント)が起こらないようにすることが重要です。
☆「モデル条文及び付属解説」以外に注意する点
ハラスメント禁止に関する就業規則を作成するに当たって、上記「モデル条文や付属解説」以外で注意すべき点をご紹介します。
●ハラスメントの禁止規定について、ハラスメントの全般的な定義を記載するだけでは、従業員にわかりやすいとはいえず、実効性がありません。
一番重要なことは、どのようなハラスメントが禁止されるのか、できるだけ具体的に示すことです。
例えば、以下のとおりです。
(パワハラの場合)
・暴行、傷害などの身体的な攻撃を加えること
・脅迫、名誉棄損、侮辱、ひどい暴言などにより、精神的な攻撃を加えること
・隔離、仲間外し、無視などにより、人間関係から切り離すこと
・業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことを強制し、妨害すること
・業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと
(セクハラの場合)
・性的な事実関係を尋ねること
・性的な内容の情報を意図的に流布すること
・性的な関係を強要すること
・必要なく身体に触れること
・わいせつな図画を配布すること
(マタハラの場合)
・妊娠したこと、出産したこと、産後の就業制限により就業できず、又は産後休業したこと、つわりなどで労働能力が低下したこと、育児休業、介護休業などに関する不利益な取り扱いの示唆、又は嫌がらせ
・産前休業、妊娠中の保健指導の時間の確保、軽易な業務への転換請求などの制度の利用に関して、不利益な取り扱いを示唆し、又は嫌がらせにより就業環境を害する言動
禁止行為を具体的に示すことで、従業員の意識が高まりますし、抑止効果が上がりますので、必ず規定に盛り込んでおきましょう。
●なお、セクハラの場合、労働者の意に反する性的言動があっただけでは足りず、「労働者が就業する上で看過できない程度の支障」が生じたという客観的要件を満たすことが必要であると指摘しています。
●その上で、ハラスメントを行った者に対して、企業が行う処分記載しておくことも重要です。
●また、ハラスメントを受けた従業員や目撃した従業員が相談する窓口の設置について規定し、相談した者に対し、不利益な取り扱いをしないことを規定しておくことも必要です。
●ハラスメント禁止に関する研修を企業が行う旨を規定しても良いでしょう。
●なお、部下からの不合理なパワハラの主張を恐れて上司が指導を怠る事例が多くなってきております。平均的な労働者の感じ方を基準として、業務上必要かつ相当な指導がパワハラに該当しないことを明記しておくことも必要なことです。
まとめ
以上、ハラスメントの防止に向けた具体的かつ実効性のある規定を設けることが重要です。従業員が安心して働ける環境を整えるためには、明確な禁止事項の提示と共に、相談窓口や企業の対応方針をしっかりと規定する必要があります。
ハラスメントは企業の信頼や生産性に深刻な影響を与えるため、徹底した対策が求められます。
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