
今回は、1年間変形労働時間制の場合の「労働時間及び休憩時間、休日」に関する規定です。
まずは、モデル就業規則第19条、第20条のモデル条文とその付属解説をまとめてお示しし、その後で、付属解説に記載されていない留意点について解説していきます。
☆厚労省モデル就業規則
(労働時間及び休憩時間)
第19条 労働者代表と1年単位の変形労働時間制に関する労使協定を締結した場合、当該協定の適用を受ける労働者について、1週間の所定労働時間は、対象期間を平均して1週間当たり40時間とする。
2 1年単位の変形労働時間制を適用しない労働者について、1週間の所定労働時間は40時間、1日の所定労働時間は8時間とする。
3 1日の始業・終業の時刻、休憩時間は次のとおりとする。
① 通常期間
始業・終業時刻 | 休憩時間 |
始業 午前 時 分 | 時 分から 時 分まで |
終業 午後 時 分 |
② 特定期間(1年単位の変形労働時間制に関する労使協定で定める特定の期間をいう。)
始業・終業時刻 | 休憩時間 |
始業 午前 時 分 | 時 分から 時 分まで |
終業 午後 時 分 |
③ 1年単位の変形労働時間制を適用しない労働者の始業・終業の時刻、休憩時間は次のとおりとする。
始業・終業時刻 | 休憩時間 |
始業 午前 時 分 | 時 分から 時 分まで |
終業 午後 時 分 |
(休日)
第20条 1年単位の変形労働時間制の適用を受ける労働者の休日については、1年単位の変形労働時間制に関する労使協定の定めるところにより、対象期間の初日を起算日とする1週間ごとに1日以上、1年間に〇日以上となるように指定する。その場合、年間休日カレンダーに定め、対象期間の初日の30日前までに各労働者に通知する。
2 1年単位の変形労働時間制を適用しない労働者の休日については、以下のとおり指定し、月間休日カレンダーに定め、対象期間の初日の30日前までに各労働者に通知する。
① 日曜日(前条第3号の特定期間を除く。)
② 国民の祝日(日曜日と重なったときは翌日)
③ 年末年始(12月 日~1月 日)
④ 夏季休日( 月 日~ 月 日)
⑤ その他会社が指定する日
<モデル条文の付属解説>
【第19条 労働時間及び休憩時間】
【第20条 休日】
1 1年単位の変形労働時間制は、労使協定により、1か月を超え1年以内の一定期間を平均し、1週間当たりの労働時間が40時間を超えない範囲において、特定された日及び特定された週に1日8時間及び1週間40時間を超えて労働させることができるという制度です(労基法第32条の4)。1年のうち特定の期間が忙しいことが予測できる場合などに適しています。
2 1年単位の変形労働時間制を採用する場合には、次の要件を満たす必要があります。
① 就業規則において1年単位の変形労働時間制を採用する旨を定めること。また、各労働日の始業・終業の時刻、休憩時間、休日等についても定めること。
② 労働者代表と以下の事項について書面による労使協定を締結し、所定の様式により所轄の労働基準監督署長に届け出ること。この場合の労使協定で定めるべき事項は以下のとおりです。
(ア) 対象となる労働者の範囲
(イ) 対象期間(1か月を超え1年以内の一定期間とすること)及びその起算日
(ウ) 特定期間(対象期間中の特に業務が繁忙な期間について設定できます。)
(エ) 対象期間における労働日及び労働日ごとの所定労働時間
(対象期間を1か月以上の期間に区分する場合は、最初の期間については労働日及び労働日ごとの所定労働時間を特定する必要がありますが、その後の期間については各期間の総労働日数と総労働時間を定めれば差し支えありません。)
(オ) 有効期間(1年程度とすることが望ましい。)
ただし、上記(エ)について、労働日数は対象期間が3か月を超える場合は原則として1年当たり280日以内、連続労働日数は原則として6日以内(特定期間においては1週間に1日の休日が確保できる範囲内)、所定労働時間は1日10時間以内、1週52時間以内(対象期間が3か月を超える場合は、1週48時間を超える週は連続3週間以内、1週48時間を超える週の初日の数は3か月に3以内)としなければなりません。
3 1年単位の変形労働時間制を採用して、週40時間労働制に適合するためには、1日の所定労働時間に応じて下表の年間休日を確保することが必要です。例えば、1日8時間の所定労働時間で1年単位の変形労働時間制を採用した場合、年間休日を105日以上としなければ週40時間労働制の枠内に収まらないこととなります。
4 労使協定の労働者代表の選出方法等については、本規程例第19条の解説を参照してください。
【参考】 週40時間労働制に適合するために確保が必要な年間休日日数は、次の表のとおりとなります。
年間暦日数 1日の所定労働時間数 | 365日 | 366日 (うるう年) |
年間休日日数 | ||
9 時 間 8 時 間 7時間50分 7時間45分 7時間30分 7時間15分 7 時 間 | 134日 105日 99日 96日 87日 ※85日 ※85日 | 134日 105日 100日 97日 88日 ※86日 ※86日 |
-計算方法-
(1日の所定労働時間×7日-40時間)×365日(又は366日)÷1日の所定労働時間×7日≦年間休日日数
※ 1年単位の変形労働時間制における1年間の労働日数の限度は280日なので、標記の休日を確保する必要があります。
5 1年単位の変形労働時間制は、恒常的な時間外労働時間及び休日労働はないことを前提とした制度です。したがって、突発的に時間外労働等がある場合、当然労基法第36条に基づいて時間外労働等に関する協定の締結及びその届出をするとともに、該当する労働者に対し割増賃金の支払が必要となります。
☆実際の運用における留意点
上記モデル条文や付属解説に記載されている事項以外にも押さえておく必要がある点についてご説明します。適正な労働環境の整備にお役立てください。
1 特例対象事業(週44時間)の取り扱い
1年単位の変形労働時間制を採用する際、週44時間の特例は適用されない点に注意が必要です。これは、1か月単位の変形労働時間制と異なる点です。
したがって、対象期間全体を平均して必ず週40時間以内に収めるように設定しなければなりません。
2 妊産婦及び年少者の取り扱い
妊娠中の女性従業員や産後1年以内の女性従業員から請求があった場合、事業主は変形労働時間制を採用している場合でも、1週間につき40時間、1日につき8時間を超えて就業させることができません。
また、年少者(18歳未満)については、変形労働時間制における所定労働時間は、1週間について48時間、1日について8時間を超えることはできません。
3 変形労働時間制に係る変更規定の取り扱い
モデル就業規則の付属解説2②にもあるとおり、1年単位の変形労働時間制は労働者代表と労使協定を締結し労働基準監督署長に届け出なければなりません。
この労使協定で特定した労働日や労働時間については、仮に労使協定で「労使の合意により協定期間中の変形制の一部を変更することができる」と定めたとしても、対象期間の途中で変更することはできません。適切な計画を立てることが重要です。
4 労働日と労働日ごとの労働時間の特定
労使協定では、対象期間における労働日ごとの労働時間をあらかじめ特定することが求められています。
ただし、実務において、1年を通じて業務の反感を予測し、その期間中の労働日及び各労働日ごとの労働時間数をあらかじめ決定することは困難です。
そこで、付属解説2②エにあるとおり、対象期間を1か月以上の期間に区分する場合は、最初の期間については労働日及び労働日ごとの所定労働時間を特定する必要がありますが、その後の期間については各期間の総労働日数と総労働時間を定めれば差し支えないとされております。図示すると以下のとおりとなります。
第1期 | 第2期 | 第3期 | 第4期 |
3カ月 | 3カ月 | 3カ月 | 3カ月 |
・労働日 ・各労働日ごとの労働時間 | ・期間中の労働日数 ・期間中の総労働時間数 | ・期間中の労働日数 ・期間中の総労働時間数 | ・期間中の労働日数 ・期間中の総労働時間数 |
5 3カ月を超える変形労働時間制における法定時間外労働時間の上限
付属解説5では、「突発的に時間外労働等がある場合、(中略)、該当する労働者に対し割増賃金の支払が必要」との記載があります。
法定時間外労働の上限は原則として月45時間、年360時間とされておりますが、対象期間が3カ月を超える変形労働時間制においては、法定時間外労働の上限は月42時間、年320時間とされております。
これは、長期間にわたる変形労働時間制では時間外労働を前提としないための措置です。
6 途中退職者等に対する賃金の計算
1年単位の変形労働時間制を適用している期間中に退職や途中採用された従業員については、労働させた期間の1週間平均の労働時間が40時間を超えている場合は、その超えた時間について、割増賃金を支払わなければなりません。
以下の計算式となります。
実労働期間中の実労働時間―実労働期間中の法定労働時間の総枠=割増賃金の対象となる時間
まとめ
1年単位の変形労働時間制は、厳格な運用が求められ、計画的かつ慎重な労務管理が重要となります。法令に基づく規定をしっかりと守り、トラブルを未然に防ぐことが大切です。
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