
今回は、モデル就業規則第21条のモデル条文とその付属解説を紹介し、その他留意点について解説していきます。
☆モデル就業規則
(時間外及び休日労働等)
第21条 業務の都合により、第19条の所定労働時間を超え、又は第20条の所定休日に労働させることがある。
2 前項の場合、法定労働時間を超える労働又は法定休日における労働については、あらかじめ会社は労働者の過半数代表者と書面による労使協定を締結するとともに、これを所轄の労働基準監督署長に届け出るものとする。
3 妊娠中の女性、産後1年を経過しない女性労働者(以下「妊産婦」という。)であって請求した者及び18歳未満の者については、第2項による時間外労働又は休日若しくは深夜(午後10時から午前5時まで)労働に従事させない。
4 災害その他避けることのできない事由によって臨時の必要がある場合には、第1項から前項までの制限を超えて、所定労働時間外又は休日に労働させることがある。ただし、この場合であっても、請求のあった妊産婦については、所定労働時間外労働又は休日労働に従事させない。
付属解説【第21条 時間外及び休日労働等】
1 法定労働時間(1週40時間(特例措置対象事業場おいては1週44時間)、1日8時間)を超え、又は法定休日(週1回又は4週4日の休日)に労働させる場合、労基法第36条に基づく労使協定(いわゆる三六協定)の締結及び届出が義務付けられています。
使用者は、労働者代表と労使協定を締結し、当該協定を所轄労働基準監督署長に届け出た場合に、当該協定の範囲内で労働者に時間外労働又は休日労働をさせることができます。
2 「労働者代表」とは、事業場の労働者の過半数で組織する労働組合がある場合にはその労働組合、そのような労働組合がない場合にはその事業場の労働者の過半数を代表する者(過半数代表者)をいいます。
過半数代表者は、次の①、②のいずれにも該当する者でなければなりません(労基則第6条の2)。
① 労基法第41条第2号に規定する監督又は管理の地位にある者でないこと
② 労使協定の締結等を行う者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法により選出された者でであって、使用者の以降に基づき選出されたものでないこと
3 過半数代表者に対する不利益な取扱いは禁止されています。過半数代表者であること若しくは過半数代表者になろうとしたこと、又は過半数代表者として正当な行為をしたことを理由として、解雇や賃金の減額、降格等労働条件について不利益な取扱いをしてはなりません。
また、使用者は、過半数代表者が労使協定の締結等に関する事務を円滑に遂行することができるよう、必要な配慮(たとえば、労働者の意見集約等を行うに当たって必要な事務機器や事務スペースの提供などが含まれます。)を行わなければなりません。
4 就業規則と同様、三六協定についても労働者に周知する必要があります(労基法第106条第1項)。
5 三六協定において定める労働時間の延長の限度等に関しては、労基法で定められており、上限を超えた時間を協定することはできません。
<時間外労働の上限規制>
①限度時間
時間外労働は1か月45時間以内、1年360時間以内(1年単位の変形労働時間制が適用される労働者については1か月42時間以内、1年320時間以内)としなければなりません。
②限度時間を超えて労働させる場合
臨時的に限度時間を超えて労働させる必要がある場合には、①の限度時間を超えて労働させることが可能ですが、その場合にも、1か月の時間外労働と休日労働を合算した時間について100時間未満、1年の時間外労働について720時間以内としなければなりません。また、限度時間を超えることができる月数(1年について6か月以内)を定めなければなりません。
③時間外労働及び休日労働の限度
三六協定で定める時間数の範囲内であっても、時間外労働及び休日労働の合計の時間数については、1か月100時間未満、2~6か月平均80時間以内としなければなりません。
※ 次の事業・業務については、2024(令和6)年3月31日までの間、時間外労働の上限規制の適用が猶予されています。
・工作物の建設等の事業
・自動車の運転の業務
・医業に従事する医師
・鹿児島県及び沖縄県における砂糖製造事業
※ 新たな技術、商品または役務の研究開発業務については、上限規制の適用が除外されています。
6 三六協定で協定すべき内容は
① 時間外又は休日労働をさせることができることとされる労働者の範囲
② 対象期間(1年間に限る)
③ 時間外又は休日の労働をさせる必要のある具体的事由
④ 1日、1か月、1年のそれぞれの期間について法定労働時間を超えて労働させることができる時間又は休日労働の日数
⑤ 協定の有効期間
⑥ 対象期間(1年間)の起算日
⑦ 時間外労働及び休日労働の合計が、単月100時間未満及び2~6か月平均80時間以内であること
⑧ 限度時間を超えて労働させる場合の具体的事由
⑨ 限度時間を超えて労働させる労働者に対する健康福祉確保措置
⑩ 限度時間を超えた労働に係る割増賃金率
⑪ 限度時間を超えて労働させる場合における手続
と定められています(労基法第36条第2項、労基則第17条)。
7 年少者(18歳未満の者)については、一定の場合を除き、労基法により時間外労働、休日労働やいわゆる変形労働時間制により労働させることはできません(労基法第60条)。また、原則として午後10時から翌日5時までの深夜時間帯に労働させることもできません(労基法第61条)。
8 使用者は、妊産婦から請求があった場合は、時間外、休日及び深夜労働をさせることはできません(労基法第66条)。また、請求をし、又は請求により労働しなかったことを理由として解雇その他不利益な取扱いをしてはいけません(均等法第9条第3項)。
☆実際の運用における留意点
上記モデル条文や付属解説に記載されている事項以外にも押さえておく必要がある点についてご説明します。適正な労働環境の整備にお役立てください。
1 時間外勤務命令、休日労働命令
使用者は原則として法定労働時間を超えて、又は法定休日に労働者を使用することはできません。
ただし、①労使協定(36協定)が締結された場合や、②災害等により臨時の必要がある場合は、法定労働時間を超え、又は法定休日に労働者を使用することができます。
36協定は、届け出た日から有効となりますので、届け出るまでは残業を命令することはできません。
2 36協定の効果
36協定を締結するだけでは、労働者は残業する義務を負うわけではありません。36協定は、労働者に残業をさせても労働基準法に違反しないという免罰効果をもつものでしかなく、労働者に民事上の義務を生じさせるためには、労働協約や就業規則に「時間外労働及び休日労働を命じる場合がある」旨を記載しておく必要があります。
3 災害時等の緊急対応
災害その他避けることのできない事由によって、臨時の必要がある場合には、時間外労働又は休日労働を命じることができますが、この場合は労働基準監督署長の許可を受ける必要があります。緊急のため、事前許可を受けられなかった場合は、事後の届出も可能です。
4 36協定の限度時間と特別の事情
上記付属解説ではわかりにくいですが、36協定の限度時間は以下のとおりです。
<原則の上限時間>
1カ月45時間以内、年360時間以内(休日労働含まず)
<臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合>
※合意しても、1か月45時間を超える月は1年に6カ月以内に抑える。
●時間外労働のみ・・・年720時間以内
●時間外労働+休日労働・・・月100時間未満、2~6か月平均80時間以内
まとめ
36協定の適正な運用は、法定労働時間の超過や法定休日の労働を適法に行うための重要な手続きです。適正な手続きと運用を行うことで、使用者と労働者双方が安心して働ける環境を整えることができます。
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