
今回は、モデル就業規則第24条のモデル条文とその付属解説を紹介し、その他留意点について解説していきます。
☆モデル就業規則
(年次有給休暇の時間単位での付与)
第24条 労働者代表との書面による協定に基づき、前条の年次有給休暇の日数のうち、1年について5日の範囲で次により時間単位の年次有給休暇(以下「時間単位年休」という。)を付与する。
(1)時間単位年休付与の対象者は、すべての労働者とする。
(2)時間単位年休を取得する場合の、1日の年次有給休暇に相当する時間数は、以下のとおりとする。
① 所定労働時間が5時間を超え6時間以下の者…6時間
② 所定労働時間が6時間を超え7時間以下の者…7時間
③ 所定労働時間が7時間を超え8時間以下の者…8時間
(3)時間単位年休は1時間単位で付与する。
(4)本条の時間単位年休に支払われる賃金額は、所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金の1時間当たりの額に、取得した時間単位年休の時間数を乗じた額とする。
(5)上記以外の事項については、前条の年次有給休暇と同様とする。
付属解説【第24条 年次有給休暇の時間単位での付与】
1 労使協定を締結すれば、年に5日を限度として、時間単位で年次有給休暇を与えることができます(労基法第39条第4項)。
2 時間単位年休の1時間分の賃金額は、
①平均賃金
②所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金
③健康保険法第40条第1項に定める標準報酬月額を30分の1に相当する額(1の位は四捨五入。ただし、③については労働者代表との書面による協定が必要です。)をその日の所定労働時間で除した額になります。
①~③のいずれにするかは、就業規則等に定めることが必要です(労基法第39条第7項)。
3 労使協定に規定しなければならない内容は次のとおりです。
① 時間単位年休の対象労働者の範囲(対象となる労働者の範囲を定めます。)
② 時間単位年休の日数(5日以内の範囲で定めます。前年度からの繰越しがある場合であっても、当該繰越し分を含めて5日以内となります。)
③ 年次有給休暇1日分に相当する時間単位年休の時間数(1日分の年次有給休暇に対応する所定労働時間数を基に定めます。1日の所定労働時間に1時間に満たない端数がある場合は時間単位に切り上げて計算します。)
④ 1時間以外の時間を単位とする場合はその時間数(ただし、1日の所定労働時間を上回ることはできません。)
4 時間単位年休も年次有給休暇ですので、事業の正常な運営を妨げる場合は使用者による時季変更権が認められます。ただし、日単位での請求を時間単位に変えることや、時間単位での請求を日単位に変えることはできません。
☆実際の運用における留意点
上記モデル条文や付属解説に記載されている事項以外にも押さえておく必要がある点についてご説明します。適正な労働環境の整備にお役立てください。
1 時間単位年休導入の背景と制約
もともと、年次有給休暇は労働日(暦日)単位で与えるものとされてきました。
しかし、「必要な時間だけ休みたい」という従業員のニーズが高まったことを受け、2008年の法改正で時間単位の取得が可能になりました。
そのため、時間単位での年次有給休暇については、年5日までを上限としております。これは、年次有給休暇の本来の趣旨を損なわないための措置です。
2 制度導入の任意性と労使協定
時間単位の有給休暇制度は、必須ではなく任意の制度です。導入する場合、事前に労使協定を締結する必要がありますが、協定を締結しても労基署への届出義務はありません。
導入を検討する際は、労働者のニーズや自社の業務形態を踏まえ、慎重に検討してください。
3 所定労働時間が端数の場合の取り扱い
モデル条文や付属解説にも記載されていますが、所定労働時間が端数を含む場合の取り扱いに注意が必要です。
たとえば、所定労働時間が7時間45分の従業員の場合、1日分の年次有給休暇は8時間として扱います。
4 通達で認められない運用
時間単位年休については、いくつかの運用上の禁止事項が通達で示されています。以下の点に留意し、運用時のトラブルを防ぎましょう。
①特定の時間帯に取得できないよう定めること
たとえば、「午前10時~午後3時は時間単位年休の取得を禁止する」などのルールを設けることは認められていません。
②所定労働時間中の一部で取得を制限すること
たとえば、「業務の都合上、勤務開始1時間以内は取得不可」といった取り扱いはできません。
③1日に取得できる時間数を制限すること
1日に複数回、時間単位年休を取得したい場合も、上限を設けることは認められません。
☆まとめ
時間単位年休制度は、従業員のライフスタイルに合わせた柔軟な働き方をサポートするための重要な仕組みです。ただし、運用には労使協定の締結や適切なルールの整備が必要であり、慎重な取り扱いが求められます。
特に、端数の取り扱いや禁止事項については事前に十分に検討し、就業規則や労使協定の内容を明確に定めましょう。
従業員への説明も丁寧に行い、制度の目的や利用方法について理解を深めてもらうことが重要です。
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