
人材開発支援助成金は、事業主が労働者に対して計画的に職業訓練を実施した際に、その訓練経費や訓練中の賃金の一部を助成する制度です。これは企業が従業員のスキル向上を図る際に、費用負担を軽減し、労働者のキャリア形成をサポートする目的で設けられています。
今回は有期実習型訓練についてご紹介します。
有期実習型訓練とは?
有期実習型訓練は、正社員としての経験が少ない有期契約労働者を対象に実施される訓練プログラムです。
この訓練は、労働者が正規雇用へ転換できるよう支援するために、OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)とOFF-JT(オフ・ザ・ジョブ・トレーニング)を組み合わせて実施されます。
適格な指導者のもとで行われる実務訓練(OJT)と、外部での講習などの理論的な訓練(OFF-JT)が効果的に組み合わせられています。
訓練の要件
有期実習型訓練を実施する際には、以下の要件を満たす必要があります:
・OJTとOFF-JTの効果的な組み合わせ
訓練がOJT(現場実習)とOFF-JT(座学や外部講習)を適切に組み合わせた内容であることが求められます。
・OFF-JTの実訓練時間が10時間以上
OFF-JTの訓練が、合計で10時間以上行われることが条件です。
・訓練期間が2ヶ月以上
訓練の実施期間が2ヶ月以上にわたるものである必要があります。
・総訓練時間が6ヶ月あたり425時間以上
訓練の総時間が、6ヶ月間の訓練として計算した際に425時間以上であることが必要です。
・OJTの割合が総訓練時間の10%~90%であること
訓練全体の中で、OJTの時間が総訓練時間の10%から90%の範囲に収まっていることが求められます。
・訓練終了後の評価
訓練が終了した後には、ジョブ・カードの「職業能力証明シート」に基づき、訓練の成果や実務能力を評価する必要があります。
有期実習型訓練の支給対象労働者
有期実習型訓練の支給対象となる労働者は、以下の要件を満たしている必要があります。
・現在雇用されている有期契約労働者や、新たに雇い入れられた有期契約労働者が対象となります。また、キャリアコンサルタントによって職業能力形成の機会が十分に与えられていなかったと判断された労働者であり、次のいずれかの条件に該当する必要があります。
(条件1)過去5年以内におおむね3年以上の正規雇用経験がない者です。正規雇用とは、労働者以外(自営業や役員など)の職務を含みません。
(条件2)過去5年以内に半年以上の休業があった者、単純作業しか従事しておらず体系的な職業訓練を受けたことがない者、もしくは正規雇用であっても訓練実施分野において短期間での離職・転職を繰り返し、正規雇用の通算期間が3年以上に満たない者など、過去の職業経験から訓練が必要と認められる者です。
・正規雇用に転換されることが約束されて雇用された者は対象外となります。
・訓練終了日や支給申請日において、雇用保険の被保険者であることも条件です。
・訓練の実施期間中は有期契約労働者であり、訓練開始前に提出された「訓練別の対象者一覧」に記載されている必要があります。
・OFF-JT(座学)の受講時間が訓練全体の8割以上であり、OJT(実習)の受講時間が総訓練時間のOJT部分の8割以上であることも要件です。
・他の事業主が実施した公共職業訓練や求職者支援訓練を修了してから6か月以内の者、または同じ事業主が実施した訓練を過去に修了した者も対象外となります。
有期実習型訓練の助成額と助成率について
有期実習型訓練における助成額と助成率は、企業が有期契約労働者に対して行う訓練を支援するために設定されています。この助成金は、OFF-JT(座学や外部講習)とOJT(現場実習)の両方に対して支給されます。
基本の助成額
・OFF-JT経費助成:訓練にかかる経費の60%が助成されます。
・OFF-JT賃金助成:1人あたりの賃金助成は1時間当たり760円です。
・OJT実施助成:1人1コースあたり、10万円が助成されます。
・さらに、有期契約労働者が訓練後に正規雇用へ転換した場合、助成率は70%に引き上げられます。
加算措置
特定の条件を満たした場合、助成額がさらに増額されます。この加算措置は、「賃金要件」または「資格等手当要件」のいずれかを満たすことで適用されます。
・「賃金要件」
訓練終了後1年以内に、毎月決まって支払われる賃金を5%以上増加させていることが条件です。
・「資格等手当要件」
就業規則や労働契約に基づいて、資格や技能に関連する手当を訓練終了後1年以内に全ての対象労働者に対して支払い、その結果、賃金が3%以上増加していることが条件となります。
加算後の助成額
・OFF-JT経費助成: 基本の助成率に15%が加算されます。
:OFF-JT賃金助成: 1人1時間あたり200円が加算されます。
・OJT実施助成: 1コースあたり3万円が加算されます。
・さらに、有期契約労働者を正規雇用へ転換した場合には、30%の加算が適用されます。
経費助成の限度額(中小企業の場合)
中小企業が有期実習型訓練を実施する際の経費助成には、訓練時間に応じて限度額が設定されています。
・10時間以上100時間未満: 最大15万円
・100時間以上200時間未満: 最大30万円
・200時間以上: 最大50万円
対象となる訓練について
有期実習型訓練において、助成の対象となる訓練には、OFF-JT(オフ・ザ・ジョブ・トレーニング)とOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)の2つが存在します。それぞれの内容について詳しく見ていきましょう。
<対象となるOFF-JT>
OFF-JTは、企業外で行われる座学や理論的な訓練を指します。OFF-JTには、以下の2種類が存在します。
a. 事業内訓練
自社で企画・主催・運営する訓練計画により、要件を満たす社外より招へいする部外講師又は部内講師により行われる訓練等
b. 事業外訓練
社外の教育訓練機関に受講料を支払い、従業員がその機関で訓練を受ける形です。こちらは、外部の専門機関が提供するプログラムに従って受講するものとなります。
<対象となるOJT>
OJTは、実際の業務を通じて行われる現場訓練を指します。有期実習型訓練の中で行われるOJTは、正社員経験が少ない有期契約労働者を対象とし、正規雇用へ転換することを目的としています。この訓練は、適格な指導者のもとで計画的に実施され、効果的なスキル習得を目指します。
対象となる賃金
訓練期間中における所定労働時間内の賃金が対象となります。訓練中も労働者に対して賃金が支払われるため、その一部を助成金で補助します。
対象となる経費
事業内訓練や事業外訓練に要する経費が助成の対象です。具体的には、以下のような費用が含まれます。
・部外講師への謝金・手当
・部外講師の旅費
・施設や設備の借上費
・訓練で使用する教科書や教材の購入費
・訓練コースの開発費
・事業外訓練に関しては、受講に必要な入学料、受講料、教科書代など、訓練機関があらかじめ定めた費用も助成の対象となります。
有期実習型訓練の手続きの流れ
有期実習型訓練を実施するための手続きは、いくつかのステップを踏んで行われます。特に、新たに訓練対象者を雇い入れる場合(基本型)では、事前の計画と手続きが重要です。
① 訓練計画の提出
まず、訓練を始めるには、事業主が「職業訓練実施計画届」を作成し、必要な書類を揃えて、訓練開始日から起算して1か月前までに各都道府県の労働局に提出する必要があります。この計画書には、訓練の具体的な内容やスケジュールが記載されており、計画に沿って訓練が進行されます。
② 訓練の実施
・訓練計画が承認されると、いよいよ実際の訓練がスタートします。訓練は、企業内でのOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)と、教育訓練機関で行われるOFF-JT(オフ・ザ・ジョブ・トレーニング)の両方を組み合わせて実施されます。
・訓練が終了した後には、「ジョブ・カード職業能力証明シート」を用いて、訓練成果や実務成果に基づいて労働者の評価が行われます。この評価は、労働者のスキルの向上を確認するための重要なステップです。
③ 支給申請書の提出
訓練が完了したら、訓練終了日の翌日から起算して2か月以内に、「支給申請書」と必要な書類を労働局に提出します。
④ 助成金の支給決定
最後に、労働局が申請内容を審査し、助成金の支給決定、または不支給の決定が行われます。この決定により、企業が実施した訓練に対する費用の一部が助成されることになります。
有期実習型訓練で必要な書類
有期実習型訓練を行う際には、いくつかの重要な書類を準備する必要があります。以下が有期実習型訓練で必要となる主な必要書類です。
・訓練カリキュラム・・・訓練の内容やスケジュールが記載されたカリキュラム。
・事前確認書・・・訓練を実施する前に必要な確認書。
・ジョブ・カードの様式(企業実習・OJT用)
・キャリア・プランシート
・職務経歴シート
・職業能力証明(免許・資格)シート
・職業能力証明(学習歴・訓練歴)シート
まとめ
以上、このような制度を活用することで、企業は労働者に対する教育を充実させ、長期的な人材育成を図ることが可能となります。また、有期契約労働者にとっても、正規雇用へステップアップする大きなチャンスとなります。
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