
働き方改革の一環として、労働時間の短縮や年次有給休暇(年休)の取得促進に向けた取り組みが注目されています。そのため、中小企業がこうした取り組みを実施する際にかかる経費の一部を助成する「働き方改革推進支援助成金」が設けられています。この助成金は、外部専門家によるコンサルティングや労務管理機器の導入など、環境整備を行う企業をサポートし、労働時間の削減や年休取得の促進を目指しています。
助成金の目的
この助成金は、中小企業が労働時間や年休の取得に関する改善を進めるための環境づくりを支援します。具体的には、労務管理を効率化し、時間外労働の削減や年次有給休暇、特別休暇の取得促進を図る企業に対し、その取り組みにかかる費用の一部を助成するものです。特に、外部専門家の助言を受けたり、労務管理に関するソフトウェアや機器を導入した企業に対して、成果が見られた場合に助成金が支給されます。
支給対象となる取組
以下のような取り組みを行う事業主が助成金の支給対象となります:
○労務管理担当者向けの研修
労務管理に関わる従業員に対する教育やスキルアップのための研修を実施。
○労働者向けの研修、周知・啓発活動
働き方改革に関する研修や情報提供を通じて、従業員に周知・啓発を行います。
○外部専門家によるコンサルティング
社会保険労務士や中小企業診断士などの専門家から助言を受け、企業の労働環境を改善。
○就業規則や労使協定の作成・変更
就業規則や労使協定の見直し、または新たに作成するための取り組み。
○人材確保に向けた取り組み
働きやすい環境を整え、人材確保を促進するための施策を実施。
○労務管理用ソフトウェアの導入・更新
労務管理の効率化を図るためのソフトウェアの導入や更新。
○労務管理用機器の導入・更新
労務管理に必要な機器の導入やアップグレードを行います。
○デジタル式運行記録計(デジタコ)の導入・更新
運送業などにおける運行管理をデジタルで行うためのデジタル式運行記録計(デジタコ)の導入
○労働能率を向上させる設備・機器の導入・更新
○POS装置(小売業)、自動車リフト(自動車修理業)、洗車機(運送業)など、業務効率を上げるための設備や機器の導入・更新
※注意点
研修の中には、勤務間インターバル制度に関するものや、業務に関連する研修も含まれますが、パソコン、タブレット、スマートフォンといったデバイスは原則として助成金の対象外となります。企業はこれらを活用せず、他の方法で労務管理の効率化を図る必要があります。
対象となる事業主
働き方改革推進支援助成金の対象となる事業主には、いくつかの要件が設けられています。以下に、助成金を受け取るために必要な条件を詳しく解説します。これらの条件を満たすことで、助成金を活用して労働環境の改善を図ることができます。
助成金の対象となるためには、次のすべての要件を満たしている必要があります。
○労働者災害補償保険の適用事業主であること
まず、事業主は労働者災害補償保険(労災保険)の適用を受けている事業主であることが前提となります。
○中小企業事業主であること
一般的な中小企業が対象ですが、医療機関(病院や診療所)、介護老人保健施設、介護医療院で医師が勤務する場合は、労働者数が300人以下であれば中小企業として扱われます。
○常時10人以上の労働者を使用している事業場の場合の要件
常時10人以上の労働者を雇用する事業場については、時季指定(年次有給休暇の取得時期を指定する権利)に関する事項が就業規則に明文化されていることが必要です。
なお、常時10人未満の労働者を使用する事業場においては、年次有給休暇管理簿を作成していることが求められます。
○次のいずれかに該当すること
・36協定で月60時間超の時間外労働を設定している事業主
すべての事業場において、時間外・休日労働に関する協定(36協定)で、1か月あたり60時間以上または80時間を超える時間数を延長できる協定を締結し、届出している事業主が該当します。
・年次有給休暇の計画的付与が規定されていない事業主
就業規則等において、年次有給休暇の計画的付与が明文化されていない事業主も対象となります。
・時間単位の年次有給休暇や特別休暇が規定されていない事業主
・全ての事業場において、就業規則に時間単位の年次有給休暇が明文化されていない、または特別休暇(病気休暇、教育訓練休暇、ボランティア休暇等)のいずれかが明文化されていない事業主が該当します。
特に、特別な配慮が必要な労働者には、不妊治療を行っている者や、時間単位の年次有給休暇とは別に時間単位の休暇が必要な者も含まれます。
成果目標について
働き方改革推進支援助成金を受けるためには、企業が設定した成果目標を達成することが必要です。この助成金の申請においては、企業が以下の目標の中から1つ以上選択し、全ての事業場で取り組む必要があります。
成果目標の選択肢
成果目標は、次の3つの選択肢から1つ以上選択します。
なお、全ての事業場で目標を達成することが条件であり、1つでも未達成の事業場がある場合は、助成金の支給が行われないため、慎重に取り組む必要があります。
(1)36協定における労働時間の短縮
全ての事業場において、令和6年度または令和7年度内に、有効な36協定のもと、労働時間や休日における労働時間の上限を短縮することが求められます。具体的には、労働時間を延長できる時間や休日の労働時間を月60時間以下または月60時間を超え月80時間以下に設定し、その内容を労働基準監督署長に届出する必要があります。
(2)年次有給休暇の計画的付与の導入
全ての事業場で、年次有給休暇の計画的付与を新たに導入することが求められます。これにより、企業は従業員が計画的に年次有給休暇を取得できるような仕組みを整えることが目標となります。
(3)時間単位の年休および特別休暇の導入
全ての事業場で、時間単位年休を導入し、さらに特に配慮を必要とする労働者に対して、事業主が講じるべき措置として、特別休暇の規定を1つ以上導入することが目標となります。
特別休暇には、以下のような種類があります:
・病気休暇
・教育訓練休暇
・ボランティア休暇
・その他、配慮が必要な労働者のための休暇(例:不妊治療など)
助成額について
働き方改革推進支援助成金は、企業が設定した成果目標の達成状況に応じて、取り組みにかかる経費の一部を助成するものです。助成額は補助率や上限額に基づいて決定され、成果目標の達成が助成金の支給条件となります。
○補助率
助成金の補助率は、通常3/4です。
ただし、事業規模が30名以下で、労働能率の増進に資する設備・機器等(支給対象となる取り組みの項目「6」から「9」に該当する経費)の合計が30万円(税込)を超える場合、補助率は4/5に引き上げられます。
○助成上限額
助成上限額は、以下の2つの要素を合計したものになります:
① 成果目標に基づく上限額
成果目標「1」に関しては、事業場の申請時点の時間外・休日労働時間数および改善事業実施後の設定時間数に応じて助成額が決まります。
具体的には以下の表のように設定されます。
事業実施後に設定する時間外労働時間数等 | 事業実施前の設定時間数 | |
現に有効な36協定において、時間外労働時間数等を月80時間を超えて設定している事業場 | 現に有効な36協定において、時間外労働時間数等を月60時間を超えて設定している事業場 | |
時間外労働時間数等を月60時間以下に設定 | 200万円 | 150万円 |
時間外労働時間数等を月60時間を超え、月80時間以下に設定 | 100万円 | ― |
② 成果目標「2」および「3」達成時の上限額
成果目標「2」または「3」を達成した場合は、それぞれ25万円が上限額として設定されます。
③ 賃金引上げを成果目標に加えた場合の加算額
賃金引上げを成果目標に加えた場合、指定した労働者の賃金引上げ人数に応じて、上記の上限額に加算されます。加算額は次の通りです。
(常時使用する労働者数が30人を超える中小企業の場合)
引上げ人数 | 1~3人 | 4~6人 | 7~10 人 | 11 人~30 人 |
3%以上 引上げ | 15 万円 | 30 万円 | 50 万円 | 1人当たり5万円 (上限 150 万円) |
5%以上 引上げ | 24 万円 | 48 万円 | 80 万円 | 1人当たり8万円 (上限 240 万円) |
(常時使用する労働者数が30人以下の中小企業の場合)
引上げ人数 | 1~3人 | 4~6人 | 7~10 人 | 11 人~30 人 |
3%以上 引上げ | 30 万円 | 60 万円 | 100 万円 | 1人当たり 10 万円 (上限 300 万円) |
5%以上 引上げ | 48 万円 | 96 万円 | 160 万円 | 1人当たり 16 万円 (上限 480 万円) |
賃金引上げ目標達成に向けた留意事項
賃金引上げを目指す際には、次の点に注意が必要です:
○就業規則の作成・変更
交付申請後から事業実施予定期間終了日までに、就業規則を作成・変更し施行することが必要です。
○賃金台帳の写しの添付
交付申請書には、対象労働者の賃金台帳の写しを添付する必要があります。
○引上げ後の賃金支払い
交付申請後から事業実施予定期間終了日までに、引上げ後の賃金を1月以上支払うこと。支給申請時には、賃金台帳等の支払い実績が分かる資料を添付する必要があります。
申請の締め切り日
申請締め切り:2024年11月29日(金)必着
提出書類一覧
・交付申請書
・事業実施計画
・36協定届(特別条項の締結状況を含む)
・就業規則の写し(年次有給休暇管理簿)
・就業規則の写し(労働条件通知書の写し)
・労使協定の写し
・対象労働者の賃金台帳の写しおよび労働時間が分かる書類
・見積書(経費の根拠資料、導入する機器等の内容が分かる資料)
まとめ
以上が、働き方改革推進支援助成金です。この制度をうまく活用することで、中小企業でも労働時間の短縮や有給休暇の取得促進が実現しやすくなります。特に、専門家の助言や最新の労務管理ツールを導入することで、企業全体の労働環境が大きく改善され、従業員の働きやすさが向上する可能性があります。
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