
人材開発支援助成金は、労働者の学び直しなどを企業が支援した場合、一定の要件が整っていることを条件に、その訓練費用や訓練中の賃金の一部を国(厚生労働省)が助成する制度で、大変人気の高い助成金となっております。
その助成金を巡って、先日、不適切な受給があったことが会計検査院の検査で発覚しました。
厚生労働省は、人材開発支援助成金の手続きの見直しを求められております。
以下が会計検査院の報告の概要です。
人材開発支援助成金について
概要
人材開発支援助成金は、労働者の職業訓練や教育訓練を実施した事業主に対して、訓練にかかる費用や賃金を国が助成する制度です。訓練経費や訓練中の賃金の一部を助成します。
申請手続き
当該助成金を受けるには、事業主は訓練開始の1か月前までに訓練計画を労働局に提出し、訓練終了後2か月以内に必要書類を添えて申請を行います。
助成金の支給決定と審査
労働局は、申請書類に基づき助成金支給の要件を満たしているかを審査し、支給決定を行います。助成金の支給には、事業主が全額訓練経費を負担していることが条件となっております。そのため、事業主以外の者が一部でも負担している場合は全額が助成対象となりません。
不正受給の防止と調査
労働局は不正受給防止マニュアルに基づき、必要に応じて助成金の支給決定前後に事業主への調査を行い、不正受給や不適正な支給を防止しています。
会計検査院による検査の結果
検査の対象と方法
本検査では、全国47労働局のうち10労働局が実施した70,175件(総額約541億円)の助成金支給決定を対象に、244件(約2.8億円)の支給を精査しました。
その結果、以下のような不適切な事態が確認されました。
訓練機関からの入金
ア 事業主から訓練実施期間に役務の提供すらない事案
訓練実施機関から訓練経費の一部を負担するための入金を受けることにより、事業主が訓練経費の全てを負担していない事案が2事業主(支給件数計4件、支給額計239万余円)で認められました。
この2事業主は、訓練実施機関に教育訓練を委託する一方、訓練実施機関が行う業務について援助活動を行うなどの役務契約を訓練実施機関との間で締結するなどして、業務協力料等の名目で訓練実施機関から入金を受けていました。
しかし、実際には、訓練実施機関が行う業務について事業主は援助活動を行っておらず、役務の提供を実施していなかったとのことです。
従って、当該入金は、訓練実施機関が訓練経費の一部を負担するためのものであると認められました。
イ 事業主から訓練実施期間に役務の提供があった事案
教育訓練に関連する役務の提供を実施して訓練実施機関等から入金を受けることにより、事業主が訓練経費の全てを負担していない事案が30事業主(支給件数計79件、支給額計1億0495万余円)で認められました。
訓練実施機関等から教育訓練に関連する役務の対価を名目として入金を受けることにより、訓練実施機関等が訓練経費の一部を実質的に負担していて、実態として事業主が訓練経費の全てを負担しておりませんでした。
その役務の内容は、受講者の感想文の提出、訓練風景の写真撮影への協力等であり、訓練実施機関等から事業主に対して金銭を支払うものとなっておりました。
事業主が支払った訓練経費等の額と助成金額との差額(すなわち事業主の自己負担額)と、訓練実施機関等からの入金額が一致するなどしており、事業主は、訓練経費を負担することなく教育訓練を実施していたことになります。
入金確認の不備
マニュアル等に訓練実施機関等からの入金の有無を確認することが示されていなかったことから、支給決定に係る審査については、ほとんどの労働局では、訓練実施機関から事業主への入金確認が行われていなかったことが判明しました。
会計検査院からの是正と改善の処置要求内容
これら不適切な事案を受けて、会計検査院は厚生労働省に対し、以下のとおり是正及び改善処置要求を出しております。
ア 助成金返還請求
訓練経費の全てを負担していなかった2事業主について、事実関係を確認するなどした上で、不適正と認められる助成金を返還させる措置を講ずること。
イ 訓練実施機関からの入金の取り扱いの明確化とその後の周知
訓練実施機関等から事業主に対する入金があった際の取り扱いを明確にし、実態として事業主が訓練経費の全てを負担していない場合に適切に対処できるよう要領等を見直すこと。
また、見直し後の要領等や訓練経費の負担に係る具体的な考え方等を、労働局を通じるなどして事業主に対して周知すること。
ウ 新たな審査・調査方法のマニュアル化
労働局における支給決定に係る審査及び実地調査において、訓練実施機関等から事業主に対する入金の有無を適切に確認できるような審査方法及び調査方法をマニュアル等に新たに定めること。
まとめ
人材開発支援助成金に関する不適切な受給が、会計検査院の調査で発覚しました。
この助成金は、企業が労働者のスキルアップを支援する際に、訓練費用や賃金の一部を国が助成する人気の制度ですが、一部の事業主による不適切な受給事例が確認されました。
これを受け、厚生労働省は手続きの見直しと不正防止のための改善を進めることが求められています。
どのような見直しが行われるのか、今後の制度見直しに注目です。
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