キャリアアップ助成金とは?〜社会保険適用時処遇改善コース〜

今回は、「キャリアアップ助成金」の一環である「社会保険適用時処遇改善コース」(令和8年3月31日まで)についてご紹介します。このコースをもって、キャリアアップ助成金の説明は最後となります。

この助成金は、事業主が労働者に社会保険を適用する際に、**「社会保険適用促進手当」**を支給するなどして、労働者の収入を増加させる場合に助成を受けられる制度です。では、この制度を利用するためのポイントを見ていきましょう。

キャリアアップ計画書の作成が必要

このコースを利用するには、事前に「キャリアアップ計画書」を労働局に提出する必要があります。この計画書は、今後のキャリアアップ施策に関する計画的な取り組みを記載する書類で、実施日の前日までに提出しなければなりません。計画期間は3年以上5年以内で設定し、キャリアアップ管理者を決める必要があります。

また、有期雇用労働者を含む全ての労働者の代表から意見を聴取することも求められます。これにより、計画が現実的で、従業員にとっても納得のいく内容になることを目指します。

対象となる労働者

1 被保険者資格の有無

雇用している短時間労働者の中に、2023(令和5)年10月以降、新たに社会保険の被保険者の要件(※)を満たすこと

(※)

・厚生年金保険の被保険者数が常時101人以上である事業所の場合は、週の所定労働時間が20時間以上かつ所定内賃金が月額8.8万円以上で学生ではないこと。

・100人以下の事業所の場合は、週の所定労働時間及び月の所定労働日数が常時雇用のフルタイム従業員の4分の3以上である者であること。

↓yes

2 継続雇用、社会保険加入履歴の有無

その労働者は、以下の①、②の両方に該当するか否か

  •  社会保険加入日の6か月前の日以前から継続して雇用されている。
  •   社会保険加入日から過去2年以内に同事業所で社会保険に加入していなかった

↓yes

3 週所定時間の延長の可否

ア その労働者は、社会保険加入日から2か月以内に、週所定労働時間を一定時間延長することができる場合

労働時間延長メニューで対応

イ その労働者は、社会保険加入日から2か月以内に、週所定労働時間を一定時間延長することができない場合

↓yes

4 働き方について労使での話し合い

その労働者の社会保険加入日から最長2年間の手当等の支給後の働き方について、労使で話し合いを行う予定がある

↓yes

5 労働時間延長の見込み

その労働者は、社会保険加入日から1年が経過した時点で、労働時間の延長ができる見込みがある。

⇒労働時間の延長ができる見込みがなければ、手当等支給メニュー

⇒労働時間の延長ができる見込みがあれば、併用メニュー

支給額(中小企業の場合)

※ 本助成金については、2023(令和5)年10月1日から2026(令和8)年3月31日までの間に新たに社会保険の加入要件を満たし、適用されることとなった労働者が対象になります。

1 手当等支給メニュー

「手当等支給メニュー」は、事業主が労働者に社会保険適用促進手当などを支給し、賃金を増額させた場合に助成されるメニューです。以下の要件を満たすと助成金を申請できます。

 要 件申請時期1人当たり助成額
1年目賃金(標準報酬月額・標準賞与額)の15%以上分を労働者に追加支給すること(社会保険適用促進手当など)左欄の取組を6か月間継続した後2か月以内6か月ごとに10万円×2回
2年目賃金の15%以上を追加支給(社会保険適用促進手当など)3年目以降、③の取組が行われること6か月ごとに10 万円×2回
3年目賃金(基本給)の18%以上を増額させていること(労働時間の延長との組み合わせによる賃金増額も可能)6か月で10 万円

(注)1、2年目は取組から6ヶ月ごとに支給申請(1回あたり10万円支給)

2 労働時間延長メニュー

次に、「労働時間延長メニュー」についてです。これは、労働者の週所定労働時間を延長し、社会保険の適用を促進する場合に助成されます。

 週所定労働時間の延長 賃金の増額申請の時期1人当たり助成額
4時間以上 +左欄の取組を6か月間継続した後2か月以内6か月で3 0万円
3 時間以上4 時間未満+5%以上
2 時間以上3 時間未満1 0 %以上
1時間以上2 時間未満1 5 %以上

※原則、延長前6か月の週平均実労働時間と延長後6か月の週所定労働時間を比較

3 併用メニュー

最後に、「併用メニュー」です。これは、賃金の追加支給と労働時間の延長の両方を組み合わせて助成を受けることができるメニューです。

・1年目(追加支給が6か月間継続した後2か月以内)

賃金(標準報酬月額・標準賞与額)の15%以上分を労働者に追加支給(社会保険適用促進手当)・・・6か月ごとに10万円×2回

・2年目

 週所定労働時間の延長 賃金の増額申請の時期1人当たり助成額
4時間以上 左欄の取組を6か月間継続した後2か月以内6か月で3 0万円
3 時間以上4 時間未満+5%以上
2 時間以上3 時間未満1 0 %以上
1時間以上2 時間未満1 5 %以上

社会保険適用促進手当とは?

社会保険適用促進手当は、短時間労働者が社会保険に加入する際に、事業主が労働者の保険料負担を軽減するために支給する手当です。この手当は、労働者の社会保険加入に伴う負担を軽減し、社会保険の適用を促進する目的で設けられています。給与や賞与とは別に支給され、労働者が新たに負担することになった保険料相当額が上限となります。さらに、この手当は最大で2年間、標準報酬月額や標準賞与額の算定基礎に含めないという特例措置が適用されます。

また、事業所内のバランスを考慮して、他の同条件で働く労働者にも同様の手当を支給する場合、その手当も同じく標準報酬月額の算定に含まれない取り扱いが可能です。

Q&A

問1 社会保険適用促進手当(社保手当)の特例措置は最大2年間とのことですが、令和5・6年度のみの措置でしょうか。

(答)

今般の措置は、継続的な賃金総額の増額につなげていただくという観点から、新規適用となった労働者について、最大2年間、標準報酬月額・標準賞与額の算定において考慮しないこととします。

なお、キャリアアップ助成金の支援対象は、令和7年度末までに労働者に社会保険の適用を行った事業主であることから、同措置についても、一定期間継続することとしています。

問2 標準報酬月額・標準賞与額の算定に考慮しないとのことですが、将来の厚生年金の額に影響はないのでしょうか。

(答)

社保手当については、社会保険適用に伴い新たに発生した本人負担分の社会保険料相当額を上限として標準報酬月額・標準賞与額の算定において考慮しないこととしていますが、この社保手当が保険料の賦課対象となる標準報酬月額・標準賞与額に含まれない以上、厚生年金の給付額の算出基礎にも含まれないこととなります。

問3 社保手当を支給する場合、就業規則(又は賃金規程)を変更した上で、労働基準監督署への届出が必要になりますか。

(答)

社保手当の支給を行う場合は、労働基準法に基づき、就業規則(又は賃金規程)への規定が必要になりますので、次ページの規定例を参考に、就業規則を変更し、労働者の過半数で組織する労働組合(ない場合は、労働者の過半数を代表する者)の意見書を添付して、所轄の労働基準監督署へ届け出てください。

問4 社保手当の名目で手当を支給する場合、名称は自由ですか。

(答)

名称は労使間での話合いにより決めることも可能ですが、標準報酬月額等の算定から除外する場合は、当該算定除外について事後的な確認が可能となるよう、「社会保険適用促進手当」の名称を使用するようお願いします。また、助成金の支給審査の効率化の観点からも、同名称を使用するようお願いします。

問5 社保手当の特例(社会保険料の算定に当たって標準報酬月額等に含めない取扱い)は、所得税や住民税、労働保険料についても対象となりますか。

(答)

今回の社保手当の特例は、社会保険料負担の発生等による手取り収入の減少を理由として就業調整を行う者が一定程度存在するという、社会保険における「106万円の壁」への対応策として、社会保険における保険料算定に対応するものであるため、厚生年金保険、健康保険の標準報酬の算定のみに係る取扱いとなります。

問6 社保手当は、割増賃金や平均賃金、最低賃金の算定基礎に算入されますか。

(答)

【割増賃金】(労働基準法第37条)

社会保険適用促進手当は、同手当が毎月支払われる場合には、割増賃金の算定基礎に算入されます。

他方、社会保険適用促進手当が毎月支払われず、

①臨時に支払われた賃金(臨時的、突発的事由にもとづいて支払われたもの及び結婚手当等支給条件は予め確定されているが、支給事由の発生が不確定であり、かつ非常に希に発生するもの)、

②1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与、1か月を超える期間の出勤成績によって支給される精勤手当、1か月を超える一定期間の継続勤務に対して支給される勤続手当又は1か月を超える期間にわたる事由によって算定される奨励加給又は能率手当)のいずれかに該当する場合には、割増賃金の算定基礎に算入されません。

【平均賃金】(労働基準法第12条)

社会保険適用促進手当が毎月支払われる場合や3か月ごと以内に支払われる場合には、平均賃金の算定基礎に算入されます。

他方、3か月を超える期間ごとに支払われる場合には、平均賃金の算定基礎に算入されません。

【最低賃金】(最低賃金法第4条)

社会保険適用促進手当が毎月支払われる場合には、最低賃金の算定基礎に算入されます。

他方、社会保険適用促進手当が毎月支払われず、①臨時に支払われた賃金(【割増賃金】と同じ)、②1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(【割増賃金】と同じ)のいずれかに該当する場合には、最低賃金の算定基礎に算入されません。

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