
障害者施策において地域移行の推進は大変重要な取り組みですが、障害者支援施設における地域移行への取り組みの現状と課題が議論され、それを踏まえた検討が行われました。
障害者支援施設の地域移行に係る現状と課題
体験宿泊支援加算の算定状況
体験宿泊支援加算は多くの事業所で算定されておらず、具体的には「体験宿泊を行う利用者がいない」という理由が61.3%、「地域生活支援拠点等の指定を受けていない(届出をしていない)」という理由が48.6%でした。障害者支援施設において地域生活を体験させる難しさが浮き彫りになりました。
地域移行の意思確認の現状
施設入所者の地域移行の希望を把握するための意思確認について、全入所者に対して定期的に意思確認をしている施設は21.6%にとどまっています。意思確認の頻度については、「決まった時期・頻度で意思確認をしている」が44.0%、「入所者の状況に応じて頻度を変えて定期的に意思確認をしている」が33.2%となっています。
地域移行推進の取り組み状況
施設で実施されている地域移行推進の取り組みとしては、「地域移行事業者等、関係機関との連携体制を構築している」が25.5%、「グループホームや地域の通所サービス等の見学会、体験利用等を行っている」が25.2%となっています。また、地域移行に取り組む中心的な職員は、サービス管理責任者が60.6%であることが示されています。これにより、地域移行に向けたマンパワーの確保が課題となっている状況が明らかとなりました。
そのため、施設入所者の意思確認と意思決定支援と関係機関との連携による支援体制の強化に向けた取り組みを推進するため、いくつかの見直しが行われました。
指定障害者支援施設の地域移行推進のための新しい取り組みについて
具体的な変更点について、詳しく見ていきましょう。
1 基本報酬の定員区分の見直し
・ 利用定員の変更を行いやすくし、施設から地域への移行を推進するため、これまで20人の利用定員ごとで定められていた基本報酬を10人ごとに設定することとされ、細分化されました。
【現行】
利用定員区分 40人以下、41人以上60人以下、61人以上80人以下、81人以上で区分
↓
【見直し後】
利用定員区分 40人以下、41人以上50人以下、51人以上60人以下、61人以上70人以下、71人以上80人以下、81人以上で区分
2 指定障害者支援施設等の一般原則の見直し【新設】
障害者支援施設は、利用者の地域生活への移行希望を定期的に確認すること、地域生活支援拠点や相談支援事業者と連携しながら、本人の希望に沿った地域移行への措置を講じることとされました。
また、利用者が施設外での障害福祉サービスを利用する状況についても把握し、その意向を定期的に確認することが義務化されることになりました。
3 地域移行等意向確認担当者の選任【新設】
これらの取り組みを円滑に進めるため、施設では「地域移行等意向確認担当者」を選任することが新たに義務付けられます。
この担当者は、事前に定めた地域移行の意向確認を行うための指針に基いて、利用者の意向を確認し、その内容を施設のサービス管理責任者や福祉サービス計画の会議で報告します。
なお、令和6年度からは努力義務とされ、令和8年度からは正式に義務化されます。
さらに、地域移行等意向確認担当者は、相談支援事業者など関係機関と連携し、障害福祉サービスの体験的な利用に係る支援を行うよう努めなければならないこととされております。
指針未作成、地域移行確認担当者未設置の場合は以下の減算が行われます。
地域移行等意向確認等に関する指針未作成等の場合の減算【新設】
・ 地域移行等意向確認等に関する指針を作成してない場合又は地域移行等意向確認担当者を選任していない場合
単位数:1日につき5単位を減算する。(令和8年度から)
その他取り組み
そのほか、障害者支援施設の地域移行の実績について、評価の拡充、新設が行われました。
(1)地域移行促進加算(Ⅱ)【拡充】
さらに、地域移行を推進するための新しい加算制度も導入されます。
単位数:60単位/日
算定要件
入所者がグループホームの見学や食事体験、地域活動に参加するなど、地域生活への移行を目指す支援が行われた場合に適用されます。
この加算は、1ヶ月に3回まで、1日につき60単位が支給される仕組みです。
(2)地域移行支援体制加算【新設】
さらに、実績に対する報酬として、障害者支援施設から地域へ移行した者がいる場合であって、入所定員を1名以上減らした場合を評価するための加算が創設されました。
具体的には、以下のように利用定員の規模に応じて加算が設定されます。
単位数:
(例)利用定員が40人以下の場合
区分6:15単位/日
区分5:13単位/日
区分4:11単位/日
区分3:8単位/日
区分2以下:6単位/日
算定要件
この加算制度は、前年度に障害者支援施設から地域生活に移行し、その生活が6ヶ月以上継続している利用者が1人以上いる場合に適用されます。
この場合、施設が利用定員を減少させたことを都道府県知事に届け出ることが条件となります。
この加算は1年間を限度として、1日あたりの所定単位数に減少した利用定員の数を掛け合わせて加算が行われます。
(3)送迎加算の拡充【拡充】
送迎加算について、障害者支援施設と隣接していない日中活動系の事業所への送迎した場合には、施設入所者を加算の対象とするよう見直しがされました。
[現 行]
生活介護事業所等において、利用者(施設入所者を除く。)に対して、その居宅等と生活介護事業所等との間の送迎を行った場合に、片道につき所定単位数を加算する。
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[見直し後]
生活介護事業所等において、利用者(障害者支援施設と同一敷地内又は隣接する生活介護事業所等を利用する施設入所者を除く。)に対して、その居宅等と生活介護事業所等との間の送迎を行った場合に、片道につき所定単位数を加算する。
まとめ
地域生活への移行をさらに加速させるため、利用者の自己決定を最大限尊重し、地域生活への移行を支援するための新たな体制が整備されてきました。利用者がより円滑に地域生活へ移行できることが望まれます。
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