
今回の改定で、障害者が地域で安心して自立生活を送るためのサービスである「地域移行支援」「自立生活援助」「地域定着支援」がさらに強化されます。
これら3つのサービスを提供する事業者は全国で約1,200箇所、利用者数は約6,000人と、まだ利用は限定的な状況です(令和5年4月現在)。
しかし、施設や病院から地域への移行を支援し、障害者が地域で自立した生活を営むためには欠かせない重要なサービスであることに変わりはありません。
以下、それぞれのサービスについて詳しく説明します。
地域移行支援とは
対象者
障害者支援施設や病院に入所・入院している障害者が対象となります。
支援内容
住居の確保をはじめ、地域生活へスムーズに移行するための各種支援が行われます。この支援を通じて、障害者が自らの生活基盤を地域で確立し、より豊かな生活を目指せるようサポートします。
自立生活援助とは
対象者
グループホームや障害者支援施設、病院等から退所・退院した障害者が対象です。
支援内容
障害者が地域で自立した生活を営むため、定期的な訪問や緊急時の随時対応など、日常生活に必要なサポートを提供します。これにより、生活面での安心感を確保し、自立を支援します。
地域定着支援とは
対象者
自宅で単身生活を営む障害者が対象です。
支援内容
常時の連絡体制を確保し、緊急時には必要な支援を提供します。特に、孤立しがちな単身生活者に対して、安心して地域生活を続けられるようサポートします。
これらサービスを巡る現状と課題について、以下の通り話し合われました。
現状と課題
1 対象者の範囲拡大の必要性
現状では、「自立生活援助」および「地域定着支援」の対象者は、地域で単身生活をしている障害者、または家族と同居していたとしても、その家族に障害や疾病があるため単身生活と同等の状態にある障害者に限定されているが、同居家族がいる場合でも、家族の支援が不十分な場合が多く存在する。
そのため、支援を要する障害者に対して、同居家族がいる場合も支援対象に含めるための制度設計が必要ではないかとの意見が出されました。
2 訪問頻度の柔軟化とICTの活用による効率的支援
現在、「自立生活援助」では、利用者宅への訪問頻度を概ね週1回以上と定めているが、実際には障害者ごとにニーズや生活状況が大きく異なる。
個々の状況に応じて訪問頻度を弾力的に設定するとともに、ICT(情報通信技術)の積極的な導入により、訪問に代わるリモートサポートやモニタリング等を組み合わせてはどうか、との指摘がありました。
3 厳格な人員基準の見直しと制度の柔軟化
「自立生活援助」では、他の日中活動系サービスに比べて厳格な人員配置基準が設定されており、具体的にはサービス管理責任者1名あたり30名の利用者に対応することが求められている。
この厳格な基準が、特に小規模な相談支援事業者にとっては参入障壁となっており、実際の提供体制の拡大が進みにくい現状があるため、より多様な事業者が参入しやすくなる人員基準のあり方を検討すべきとの意見が出されました。
4 自立生活援助の実施主体の多様化と指定の推進
「自立生活援助」の実施主体として、現行では訪問系または居住系事業者(施設)や相談支援事業者に限られているが、居住支援法人も自立生活援助事業者としての指定を可能とし、居住支援法人の積極的な参入を促すことで、障害者の地域生活を支えるネットワークがより多様で広範囲なものとなり得るとの意見も出されたところです。
見直しの内容
1 対象者の明確化【自立生活援助、地域定着支援】
従来、単身生活者や、同居家族による支援が困難なケースに限定されていた「自立生活援助」および「地域定着支援」の対象者について、『生活環境が大きく変化する障害者』にまで対象が拡大されました。
2 基本報酬の見直し【自立生活援助、地域移行支援、地域定着支援】
ICT(情報通信技術)の活用による遠隔支援の導入を可能にし、訪問による支援と組み合わせた効果的な支援の提供が推進されました。また、これに伴い新たな報酬区分が設定され、基本報酬自体も実態に即して調整されています。
◆自立生活援助
【現 行】
・自立生活援助サービス費(Ⅰ)
1,558単位/月(30人未満)
1,090単位/月(30人以上)
・自立生活援助サービス費(Ⅱ)
1,166単位/月(30人未満)
817単位/月(30人以上)
↓
【見直し後】
・自立生活援助サービス費(Ⅰ)
1,566単位/月(30人未満)
1,095単位/月(30人以上)
・自立生活援助サービス費(Ⅱ)
1,172単位/月(30人未満)
821単位/月(30人以上)
【新 設】
自立生活援助サービス費(Ⅲ) 700単位/月
*居宅への訪問とテレビ電話等を活用した支援をそれぞれ月1回ずつ以上で算定
◆地域移行支援
【現 行】
地域移行支援サービス費
(Ⅰ)3,504単位/月
(Ⅱ)3,062単位/月
(Ⅲ)2,349単位/月
↓
【見直し後】
地域移行支援サービス費
(Ⅰ)3,613単位/月
(Ⅱ)3,157単位/月
(Ⅲ)2,422単位/月
◆地域定着支援
【現 行】
・体制確保費 306単位/月
・緊急時支援費
(Ⅰ)712単位/日
(Ⅱ)95単位/日
↓
【見直し後】
・体制確保費 315単位/月
・緊急時支援費
(Ⅰ)734単位/日
(Ⅱ)98単位/日
3 集中的な支援の評価【自立生活援助】
利用者のニーズに応じ、週1回以上の訪問を実施し、集中的な支援を行った事業所に対し、500単位/月の加算が認められることになりました。
具体的には、自立生活援助サービス費(Ⅰ)の利用者に対し、月6回以上の訪問を行った場合にこの加算が適用され、より手厚い支援体制が評価されることになります。
4 サービス提供体制の推進【自立生活援助】
・相談支援事業所において、地域相談支援の業務に従事する相談支援専門員を配置することで、自立生活援助事業所のサービス管理責任者とみなすことができるよう、人員基準が緩和されました。
・また、サービス管理責任者を常勤専従で配置する場合には、配置基準を従来の30:1から60:1に拡大し、柔軟な配置が可能となりました。
・さらに、多様な事業主体の参入を促すため、現行では一定の要件を満たす障害福祉サービス事業者に限定されていた実施主体要件が廃止され、より多様な事業者が参入しやすい制度に改正されました。
まとめ
今回の地域移行支援・自立生活援助・地域定着支援の報酬改定では、対象者の拡大やICTの活用のほか、報酬区分の見直し、多様な事業主体の参入の促進に議論され、いくつかの見直しが行われました。
支援体制がより充実し、利用者にとって最適な支援が提供されることで、障害者が地域で自立した生活を営むための環境整備がさらに進むことが期待されます。
以下、これまでに公表されたQ&Aについて抜粋してご紹介します。
Q&A VOL.1
問 34 退居後共同生活援助サービスと、自立生活援助又は地域定着支援とを併給する場合、同一法人の自立生活援助事業所又は地域定着支援事業所であっても算定可能か。
(答)
貴見のとおり。ただし、当該利用者に対して退居後(外部サービス利用型)共同生活援助サービスを実施する従業者と自立生活援助又は地域定着支援を実施する従業者とを同一人物が兼務している場合は、算定できない。
(平成 30 年3月 30 日事務連絡)(2)自立生活援助 問 66 は以下のとおり訂正する。)
問 66 定期的な居宅訪問
定期的な居宅訪問については、月に2回以上利用者の居宅を訪問すればよいか。指定自立生活援助の自立生活援助サービス(Ⅰ)と(Ⅱ)においては、利用者の日常生活における課題を把握し、必要な支援を行う必要があることから、支援計画に基づき概ね週1回以上、当該利用者の居宅を訪問することとしている。
なお、月途中から利用を開始する場合やサービス終了に向けて訪問頻度を調整する場合等を考慮し、基本報酬の算定においては、定期的な訪問による支援を月2回以上行うことを要件としているが、安易に訪問回数を減らすことがないよう留意すること。
Q&A VOL.3
問6 自立生活援助サービス費(Ⅲ)の支給決定を受けている利用者に対して、事業所が月に2回以上自宅に訪問し支援した場合に、自立生活援助サービス費(Ⅰ)又は(Ⅱ)が算定できるか。
(答)
サービス等利用計画案において、ICTの活用による支援を位置付けた上で支給決定を行っているものであるため、算定できない。
↓