
医療的ケア児とは
近年、医学の進歩により、NICU(新生児特定集中治療室)に長期入院後も人工呼吸器や胃ろうなどを使用し、日常的にたんの吸引や経管栄養といった医療的ケアが必要な子どもたちが増えています。これらの子どもたちを「医療的ケア児」と呼びます。現在、全国に在宅で暮らす医療的ケア児は約2万人おり、その数は増加傾向にあります。特に0〜4歳の年齢層に多く見られ、人工呼吸器を必要とする児童の数は、この10年間で約2.3倍に増えています。
家族の負担と支援ニーズ
在宅で暮らす医療的ケア児を抱える家族への調査では、日々の介護負担を軽減するための支援として、「日中の預かり支援」のニーズが非常に高いことが分かっています。このニーズは特に年齢の低い子どもほど強くなります。また、入浴支援を行える施設が不足しているといった、具体的な課題も挙げられています。こうした状況を踏まえ、医療的ケア児に対する支援サービスの強化が求められています。
このような中、生活介護では、常勤換算で1~3人以上の看護職員を配置した場合、「常勤看護職員等配置加算(Ⅰ)~(Ⅲ)」で評価されており、また、「人員配置体制加算(Ⅰ)~(Ⅲ)」により評価も行われておりました。
今回、医療的ケアが必要な者など、重度の障害者に対する体制を整備するため、各種加算の見直しが行われました。
1 常勤看護職員等配置加算の見直し
今回は、医療的ケアが必要な方々への支援体制を強化し、特に医療的ケア児が成人期に移行する際にも対応できるよう、常勤看護職員等配置加算の見直しが行われました。
常勤看護職員等配置加算
<見直し前>
・常勤看護職員等配置加算(Ⅰ):看護職員を常勤換算で1人以上配置
(1)利用定員20人以下:28単位/日
(略)
・常勤看護職員等配置加算(Ⅱ):看護職員を常勤換算で2人以上配置
(1)利用定員20人以下:56単位/日
(略)
・常勤看護職員等配置加算(Ⅲ):看護職員を常勤換算で3人以上配置
(1)利用定員20人以下:84単位/日
(略)
見直し後の常勤看護職員等配置加算
今回の見直しでは、利用定員に応じた所定単位数に、常勤換算で算定された看護職員の数を乗じて単位数を加算する形に大きく変更されました。利用定員ごとの単位数は以下の通りです。
↓
<見直し後>
利用定員が5人以下:32単位/日
利用定員が6人以上10人以下:30単位/日
利用定員が11人以上20人以下:28単位/日
利用定員が21人以上30人以下:24単位/日
利用定員が31人以上40人以下:19単位/日
利用定員が41人以上50人以下:15単位/日
利用定員が51人以上60人以下:11単位/日
利用定員が61人以上70人以下:10単位/日
利用定員が71人以上80人以下:8単位/日
利用定員が81人以上:6単位/日
2 人員配置体制加算の見直し
今回の報酬改定では、医療的ケアが必要な方や重度の障害者に対して、手厚い支援体制を評価する人員配置体制加算が拡充されました。複数の職員による支援が求められる中で、この加算の見直しは、より適切な体制を確保するための重要な一歩です。
人員配置体制加算
<見直し前>
・人員配置体制加算(Ⅰ):直接処遇職員配置が「1.7:1」以上など
(1)利用定員20人以下:265単位/日
(略)
・人員配置体制加算(Ⅱ):直接処遇職員配置が「2:1」以上など
(1)利用定員20人以下:181単位/日
(略)
・人員配置体制加算(Ⅲ):直接処遇職員配置が「2.5:1」以上など
(1)利用定員20人以下:51単位/日
(略)
↓
<見直し後>
今回の見直しでは、配置基準が改善され、より多様な利用定員に応じた加算が行われることになりました。具体的な単位数は以下の通りです。
・人員配置体制加算(Ⅰ):直接処遇職員配置が「1.5:1」以上
(1)利用定員20人以下:321単位/日
(2)利用定員21人以上60人以下:263単位/日
(3)利用定員61人以上:245単位/日
・人員配置体制加算(Ⅱ):直接処遇職員配置が「1.7:1」以上
(1)利用定員20人以下:265単位/日
(2)利用定員21人以上60人以下:212単位/日
(3)利用定員61人以上:197単位/日
・人員配置体制加算(Ⅲ):直接処遇職員配置が「2:1」以上
(1)利用定員20人以下:181単位/日
(2)利用定員21人以上60人以下:136単位/日
(3)利用定員61人以上:125単位/日
・人員配置体制加算(Ⅳ):直接処遇職員配置が「2.5:1」以上
(1)利用定員20人以下:51単位/日
(2)利用定員21人以上60人以下:38単位/日
(3)利用定員61人以上:33単位/日
3 入浴支援加算と喀痰吸引等実施加算の新設
今回の報酬改定では、医療的ケアが必要な方々に対するさらなる支援を充実させるために、入浴支援加算と喀痰吸引等実施加算という新しい加算が創設されました。
入浴支援加算の新設
医療的ケアが必要な方への入浴支援の時間が他の障害者に対する時間の2倍近く要している実態に応じて、今回の改定で新たに入浴支援加算が設けられました。この加算は、医療的ケアが必要な方々に入浴支援を提供した場合に適用され、以下のように評価されます。
入浴支援加算【新設】
1日につき80単位/日
対象:医療的ケアが必要な方、または重症心身障害者に対して、入浴支援を行った場合
これにより、入浴支援にかかる負担が評価され、サービス提供の質の向上が期待されます。
喀痰吸引等実施加算の新設
喀痰吸引や経管栄養といった健康管理、医療的ケアの利用時間が全体の10%弱に上っている実態に鑑み、喀痰吸引等実施加算も新たに創設されました。この加算は、特定の研修を修了した職員が、適切な知識と技術をもって喀痰吸引等を行った場合に適用されます。
喀痰吸引等実施加算【新設】
1日につき30単位/日
対象:喀痰吸引や経管栄養を必要とする利用者に対して、研修を修了した職員が喀痰吸引等を実施した場合
この加算により、喀痰吸引などの高度なケアに対する適切な評価が行われ、ケアを提供するスタッフへの支援が強化されます。
まとめ
今回の障害福祉サービス報酬改定では、医療的ケア児・者を含む重度の障害者が地域で安心して暮らせるよう各種サービスの見直しが行われております。
今回はその取り組みのうちの一つである生活介護についてご紹介しました。
今後も、医療的ケアを必要とする人々やその家族が安心して支援を受けられる体制づくりが進められることが期待されます。
以下、これまでに公表されたR6年度報酬改定における生活介護の上記加算に係るQ&Aを抜粋してご紹介します。
Q&A VOL.1
問 30 令和6年4月時点において、人員配置体制加算算定の際、前年度の利用者の数の平均値はどのように計算するのか。
(答)
例えば、以下のとおり計算されたい。
(例)
・Aさんのサービス提供時間 → 平均6時間(3月の実績)
・Bさんのサービス提供時間 → 平均7時間(聞き取りによる見込み)
・Cさんのサービス提供時間 → 平均6時間(3月の実績+配慮事項を勘案)
→2人×0.75+1人×1=2.5 人
(人員配置体制加算の取り扱い②)
問 31 人員配置体制加算については、多機能型事業所の場合、前年度の利用者の数の平均値は生活介護のみの利用者の数のみを勘案すれば良いか。
(答)
貴見のとおり。ただし、利用定員については、多機能型事業所全体の定員数とする。
問 32 主に重症心身障害児者を通わせる多機能型事業所(生活介護と児童発達支援又は放課後等デイサービス)で常勤看護職員等配置加算を算定する場合は、当該多機能型事業所全体で、常勤換算方法により算出した看護職員の員数に応じて算定することが可能か。
(答)
当該多機能型事業所全体で配置している看護職員の常勤換算員数に応じて算定が可能である。例えば常勤換算方法で5人の看護職員が配置されていれば、常勤看護職員等配置加算は定員に応じた単位数に5を乗じた単位数を算定することが可能である。
Q&A VOL.3
問5 生活介護サービス費について、令和6年度報酬改定において、きめ細かく定員区分が設定されたが、以下の例における多機能型生活介護事業所の基本報酬、常勤看護職員等配置加算及び人員配置体制加算についての具体的な取扱い如何。
①利用定員が生活介護8名、就労継続支援A型 16 名の計 24 名の多機能型事業所の場合
②離島等の多機能型事業所において、利用定員が生活介護3名、就労継続支援A型7名の計 10 名の多機能型事業所の場合
③主として重症心身障害児者を通わせる多機能型生活介護事業所が多機能型児童発達支援等を一体的に行う場合であって、利用定員が全ての事業を通じて5名の場合
(答)
(①の場合)
基本報酬・・・定員 21 人以上 30 人以下の区分
常勤看護職員等配置加算・・・定員6名以上 10 人以下の区分
人員配置体制加算・・・定員 20 人以下の区分
(②の場合)
基本報酬(※)・・・定員 11 人以上 20 人以下の区分
常勤看護職員等配置加算・・・定員5名以下の区分
人員配置体制加算・・・定員 20 人以下の区分
(※)基本報酬における「5人以下」「6人以上 10 人以下」の定員区分については、「主として重症心身障害児者を通わせる多機能型生活介護事業所が多機能型児童発達支援等を一体的に行う場合」のみ
が算定可能であるため、離島等の多機能型事業所のように定員数を 10 名とすることが可能であっても、基本報酬は「11 人以上 20 人以下」の区分となる。
(③の場合)
基本報酬・・・定員5名以下の区分
常勤看護職員等配置加算(※)・・・定員5名以下の区分
人員配置体制加算(※)・・・定員 20 人以下の区分
Q&A VOL.4
問1 常勤看護職員等配置加算は、定員超過利用減算、サービス提供職員欠如減算又はサービス管理責任者欠如減算に該当する生活介護事業所において、算定することはできるか。
(答)
常勤看護職員等配置加算は、人員配置基準を満たした上で、適正なサービス提供を確保していると認められる生活介護事業所において、手厚い看護職員の配置を評価する加算である。
このため、定員超過利用減算、サービス提供職員欠如減算又はサービス管理責任者欠如減算に該当する生活介護事業所は、人員配置基準を満たしていないことから、適正なサービス提供を確保しているとは言えないため、常勤看護職員等配置加算を算定することはできない。
問3 生活介護サービス費について、主として重症心身障害児者を通わせる多機能型生活介護事業所が多機能型児童発達支援等を一体的に行う場合(以下「重心多機能型事業所」という。)では、基本報酬、常勤看護職員等配置加算や人員配置体制加算は重心多機能型事業所全体の利用定員に応じて算定することが示された。
多機能型事業所の特例によらない人員を配置している重心多機能型事業所の場合、多機能型生活介護の基本報酬や加算は、多機能型生活介護の定員に応じ、算定することになるのか。
(答)
貴見のとおり、多機能型事業所の特例によらない人員を配置している重心多機能型事業所の場合、多機能型生活介護の基本報酬や加算は、多機能型生活介護の定員に応じ、算定することになる。
具体的には、多機能型事業所の特例によらない人員を配置している重心多機能型事業所において多機能型生活介護の利用定員が5名、多機能型児童発達支援の利用定員が5名、多機能型放課後等デイサービスの利用定員が5名の場合、多機能型生活介護においては利用定員5名以下の区分の基本報酬や加算の算定が可能である。
↓